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「読書録」リボルバー – ゴッホの自殺は本当だったのか?史実に基づいたアートミステリー

世界的有名画家の一人「フィンセント・ファン・ゴッホ」のお話。

ポスト印象派の画家として知られており、「ひまわり」「夜のカフェテラス」「星月夜」など数々の作品を手掛けました。

そんなゴッホはリボルバーで自殺を図り、一命を取り留めるものの37歳という若さで最期を迎えます。

ただ、そこには不可解な点がいくつかあり、実は自殺ではなく他殺だったのではないかとも言われています。

これまでゴッホ他殺説を唱える書籍が出版され、話題を呼びました。原田マハさんの「リボルバー」もゴッホの不可解な死について、様々な人物の視点から書かれているアートミステリー。

21世紀のオークション会社が舞台となっており、高遠 冴(たかとう さえ)という日本人の女性オークショニア目線でゴッホとポール・ゴーギャンの謎を追いかけていきます。

アートに深い造詣をもった原田マハさんだからこそ描ける、史実に基づいた物語です。

小さなオークション会社に舞い込んだ赤く錆びついたリボルバー

この物語は日本人女性の冴を主人公に話が進みます。

冴は、パリにあるオークション会社「キャビネ・ド・キュリオジテ(CDC)」に勤務するオークショニア。

大学の在学中に知り合った友人は大手「サザビーズ」に就職し、ゴッホやゴーギャンなど数々の名作を扱っています。

CDCは残念ながら、歴史的にも売上的にも足元にも及ばない小規模な会社です。冴はキラキラした友人の姿を見ながら、劣等感を抱いていました。

そんなある日、とある女性がCDCに訪れます。冴はその女性が醸し出す雰囲気から、何か特別なものを感じました。

女性の名前はサラ。出品の依頼をしたいとのことで、トートバックの中からしわくちゃの茶色い紙袋を取り出します。

紙袋の中身を確認すると、そこには赤く錆びついた“リボルバー”が。さらに、このリボルバーはフィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたものとのこと。

冴は、この錆びついたリボルバーが、ゴッホの自殺に関係しているものだと証明するために動き出します。

リボルバーの真実が少しづづ紐解かれていく

突如、小さなオークション会社に持ち込まれたリボルバー。

それが贋作か、それとも本物か、冴はゴッホにまつわる場所に訪れ真相を探ります。

調査を続けていくと、一つの事実が判明します。それがリボルバーを持ち込んだサラは、ゴーギャンの子孫だったことを。

サラはとある人物からリボルバーを受け継いだものらしく、その人物は不明でした。そこで冴は、その人物を「X」と仮定しました。

Xはサラに対し4つの秘密を打ち明けます。

1つ目、Xはゴーギャンの子孫。

2つ目、ゴーギャンが所有していたリボルバーが祖母・母・自分(X)へと受け継がれてきた。

3つ目、そのリボルバーはゴッホにまつわる貴重なもの。

4つ目、このリボルバーは史実を覆す重要な真実が隠されていること。

サラがゴーギャンの子孫だったことと、ゴーギャンとゴッホの関係性からゴッホを殺害したのはゴーギャンなのではという説を冴の同僚が唱えます。

しかし冴は、この考えに納得がいきません。

冴はゴーギャンの子孫について、様々な文献を引っ張り出し調査を始めます。しかし、なかなか手掛かりは見つかりません。

調査を続ける中、冴の脳裏にゴーギャンの回想記が蘇ります。それが「私は愛したいと思う、ができない。私は愛すまいと思う、ができない」という一文でした。

ゴーギャンが愛したのは妻だけではなく、複数の愛人がいたことを思い出したのです。

サラから告げられた告白

リボルバーについて少しづつ紐解かれていきますが、真相には辿り着けません。

そんなある日、冴に一通のショートメッセージが届きます。送信先はサラでした。二人はカフェで会う約束をし、当日を迎えます。

サラは鑑定が終わったのか、結論を急いでいる様子でした。

冴はサラから依頼されたリボルバーは偽物だったと告げます。更にゴッホはゴーギャンに殺されたんだと打ち明かしました。

しかし、冴の言葉には確証がありません。この言葉を聞いたサラは怒って帰ってしまう可能性もあります。またリボルバーの真実もわからないままになる可能性も否定できません。

長い沈黙が続きサラが口を開きます。「その通りよ」と。

ゴーギャンと出会ったことでゴッホの芸術家としての才能が開花、そして現代に受け継がれるアーティストへ

ここからはサラとその母、そしてゴーギャンの視点で物語が進みます。

ネタバレとなるため、気になる方は是非本書を手にとっていただけますと幸いです。

ゴッホとゴーギャンは、生まれも生い立ちも生き方も、性格も絵に対する考え方も作品自体も、何もかもが違っていました。

その二人の画家はいづれ出会い、そして共同生活を送ることに。しかし、ゴーギャンはゴッホと一緒に生活することが息苦しくなり、家を出ることになります。

ゴーギャンに心酔していたゴッホは、ナイフを取り出し自らの耳を切り落とします。いわゆる「耳切り事件」です。

その頃からゴッホは精神的にも病んでしまいますが、名作が誕生したのもこの頃。名作の一つとしても数えられる「ひまわり」はゴーギャンに向けて描かれた作品だそうです。

ゴッホは37歳という若さでこの世を去りますが、告別式にゴーギャンの姿はなかったそうです。

ゴッホは個展を開くことが夢でした。その夢を叶えることができないまま、生涯を終えますが弟のテオが実現します。その開催場所が、告別式の会場でもあるゴッホが息を引き取った自宅だったそうです。

私はゴッホと聞くと耳切り事件など、どちらかというと狂気的な印象を抱いていました。本書を読み終えると、芸術に対してはもちろんですが、家族への思いが人一倍強い人間なんだと感じました。

本書でも描かれていますが、弟のテオをはじめ家族に宛てた手紙も多く残っており優しさが感じられます。

またゴッホと、よき友人でありライバルでもあるゴーギャンとの関係性も興味深かったです。この二人が出会わなければ、もしかしたらゴッホという人間は、現代に語り継がれなかったかもしれません。

ゴッホの人生のたった一部分かもしれませんが、本書を通して知れたことに嬉しく思います。

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Kazuya Nakagawa