これまで「香りが伝える景色」と題して、愛用してきた香水をいくつか紹介してきました。
深い森のようなウッディー調から、華やかなフローラルノートまで、自室には気づけば香水がずらりと並んでいます。趣味と言われても否定できないほどですが、実はずっと使い続けている香りは驚くほど少数です。
歳を重ねるにつれ、香りの好みが移り変わっていくことに、自分でもたびたび驚きます。
昨年までは大好きで毎日つけていた香水が、今年になった途端まったく気分ではなくなったり。時には苦手に感じてしまうことも増え、部屋の一角で静かに出番を待ち続けている香水も多くなってしまいました。
そんな中、10年以上変わらず手元に置き続けている一本があります。
Aesop マラケシュインテンス
ロールオンタイプで本当に使いやすいため、気がつくと至る所にぬり散らかしている
大学1年くらいの頃でしょうか、少し背伸びをして購入したのが始まりでした。試香紙に乗せてもらった時のあの衝撃は、今でも忘れることができません…。
つけていると、周囲からときどき「仏壇みたいな香り」と評されることがあります。「もしそう思うなら手でも合わせてください」と言いたくなる気持ちを抑え、口からこぼれた言葉は「申し訳ありません」。
たしかに言われてみればお香に近い雰囲気はありますが、その一言に深い意味を求めないようにしています。
誰に何と言われようと、自分にとっては変わらず心地よい香りだからです。
自分にとっては、”きっかけ”の香り
マラケシュの横には、同じく愛用しているイーディシス
トップノートはネロリやジャスミンの柔らかなフローラル。そのあとゆっくりと、パチュリやサンダルウッド、シダーウッドといったウッディーでスパイシーな香りが肌になじむように広がっていきます。
派手さはないのに、思わず深呼吸したくなるなんとも言えない温度感。そして、何度つけても「これだ」と思える不思議な安定感。
実を言えば、私が香水集めにのめりこんだのは、このマラケシュがきっかけでした。初めて肌に乗せた瞬間のあの感覚を、もう一度味わいたくて、次々と別の香水に手を伸ばすようになったのだと思います。
これまで数えきれないほど素敵な香りと出会いましたが、どれほど似た系統の香水を試しても、最終的に戻ってくるのはいつもこの一本です。
変わっていくことと、変わらずにあること
最近思うのは「ずっと使い続けているもの」なんて、実はそんなに多くないということ。
趣味も好みも、環境や経験によって変わっていくのが人間らしさです。そんな中で、長い時間をかけてもなお離れずに残っているものは、自分の中の軸や価値観を支えてくれているのかもしれません。
もし誰かにとって、ずっと手放さずにいる香りや道具、習慣のようなものがあるのなら、それは大切にするべきものだと思います。
変わっていくことと、変わらずにあること。
そのどちらも大事にしたいと気づかせてくれる、そんな香水でした。