第一回、フォントホリック企画は「秀英角ゴシック銀」。
本当はクライアントワークで使いたかったけれども、Type SquareやAdobe Fonts等の有償ウェブフォントの利用許可が降りず、Google Fontsに戻ってきてしまった時のやり場のない気持ち。
その気持ちこそ、当記事を執筆する原動力です。(もちろん、Google Fontsで提供されているフォント全般も大好きです。)
「フォント中毒者」と自称するにはまだまだタイポグラフィー全般への知見に乏しい私ですが、今後は文字周りの知見を蓄えつつ、自身のデザインワークの中で「ついつい手癖で使ってしまいそうになる愛しのフォントたち」を少しづつ取り上げていきたいと考えています。
秀英角ゴシック銀
秀英角ゴシックStd 銀は、大日本印刷が開発した高品質な角ゴシック体フォントです。
一見、至極プレーンな角ゴシック体ですが、よく見ると少しだけ重心が高めで、実際に文字を組んでみるとまるで明朝体のような上品さと柔らかな印象を放ちます。
「ゴシック体なのに明朝体のような品」という矛盾した表現に違和感を覚える方も多いかもしれません。
私自身もその理由をうまく言葉にできなかったため調べてみたのですが、どうやら同社の提供する「秀英体」の一つとして知られる「秀英明朝L」を骨格として作られているようでした。
秀英角ゴシック銀の骨格となった秀英明朝L
直感はあながち間違っていなかったわけですね。
活字時代を彷彿とさせるクラシカルな雰囲気、とても良いです。「ふかふか」の「ふ」に見られる草書のような品の良さもたまりません。情緒的なメッセージとも非常に相性が良さそうです。
たとえば、見出しに秀英明朝を、本文に秀英角ゴシック銀を合わせたら少し贅沢すぎるでしょうか。
小ぶりな「仮名」が好き
秀英角ゴシック銀は、仮名がわずかに小ぶりに設計されています。
同シリーズの秀英角ゴシック金と見比べてみるとよく分かるかもしれません。具体的には「ふところ」と呼ばれる文字の中の空間が、わずかに狭めに設計されているのです。
人間のふところは広い方が良いに決まっていますが、フォントであれば話は別
画像のように、ややゆったりした印象を受ける金に対して、銀はより引き締まった誠実な印象を与えます。
単純に一文字だけ見た場合、指摘されないと気づかないほど本当に僅かな差です。しかし、ある程度まとまった量の本文を組んでみると、その可読性の高さにも驚かされます。
字詰めした時の表情もまた良い
そのままでも十分読みやすいのですが、ベタ組みの場合、仮名周りがやや広めの印象を受けます。
カーニングをしてみると、ぎゅっと引き締まった端正な表情に一変。広告クリエイティブのメインコピーにも使いやすそうです。
字詰めするとふかふかの猫が端正な印象に
そんなすまし顔もできるのですね。
ウェブサイトの開発時には、CSSのfont-feature-settingsプロパティの設定に加え、YakuHanJPあたりを読み込んで約物まわりに気を遣っておくと、秀英角ゴシック銀の魅力がより一層引き立つと思います。
執拗なまでに縦書きにしたくなる
毛並みの美しさが際立つ縦書き
骨格となっているフォントが明朝体だからでしょうか、執拗なまでに縦書きにしたくなるのです。
そんなデザイナーの性(さが)を知ってか知らずか、当初から縦組みの時にも美しく映えるように設計されています。
ウェブサイトのデザイン制作時に縦書きを乱用しすぎるとコーディングの時に少し困るので、使う場面は限定しつつ。と言いながらも、どこかで縦書きを効果的に使えないかな…と模索してしまいます。
手癖に逃げるのはデザイナーとして後退だと理解してはいるものの、秀英角ゴシック銀を一度使ってしまうと、代替フォントでは物足りなく感じてしまうのが困りものです。
普通なのに、何故だか心地良い。この言葉で表すことのできない「律動」のようなものが、このフォントの醍醐味だと思います。
自ら「銀」を名乗っているところも心憎いですね。
いつかまた実案件で使える日が来ることを望んでいます。