プロジェクトにおける「目的」の明確化を疎かにしないために

2023.11.10.

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Text : K.Matsuoka

Photograph : K.Matsuoka

私たちがブランディングを行う場合「プロジェクトの目的を明確にすること」に最も注力すると言っても過言ではありません。

要求事項を掘り下げずにプロジェクトを開始してしまうことは避けなくてはなりません。要望の輪郭が不確かな状態で計画が始動する場合、目指す成果に対する明瞭性を欠くことになるためです。

結果として多岐にわたる状況下における評価基準が揺らぎ、計画の遂行に負の影響を及ぼすことになるのです。

共通認識の構築や適切な意思決定が困難を極める状況では、修正の反復が常態化し、それに伴う計画遅延も避けがたい結果となります。

プロジェクトの目的、その解像度をより向上させるために私たちが考えていることを取りまとめてみました。

プロジェクトの目的を高解像度で俯瞰するために

最も重要なのは対話だと考えています。

目標遂行のための手段の背後に潜む根本的な要望を明らかにするためには、第一に現況に対する精密な認識が求められるためです。

そのためにはプロジェクトのスタートに先立ち、目標を定義するための詳細な調査や、対話を通じた情報収集の実行が不可欠です。

調査及びヒアリングの工程においては、「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「何のために」「どのように行うか」という根本的な6つの疑問(5W1H)を明らかにすることが肝要です。

周辺要素の調査及び対話を通じたヒアリングの目的は、基礎となる前提事項、プロジェクトの形成過程、経緯、ステークホルダーの志向性、関与者の認識など、プロジェクトのゴールを洞察するために必要となる多様な情報を獲得することにあります。

プロジェクトの目的をどのように明確にするか

プロジェクトの目的は、往々にしてテキストによる明文化がなされておらず、結果としてその解釈には個々の差異が生じ得ます。

プロジェクトには多様なステークホルダーが関与することが予見されるため、前提事項を都度共有するという手法は効率を著しく損なう恐れがあります。したがって、プロジェクトの意図を文として整理し、適宜参照できるようにしておく必要性があります。

これにより、関係者間の理解の均一性を保つと同時に、プロジェクトの進行における明瞭さを確保することができます。

以下の7項目は、プロジェクトが円滑に推進されるために明確化しておきたい項目です。

  1. プロジェクトの目的
  2. 制約となる条件とその範囲
  3. 参画を要するメンバーや企業間の連携構築
  4. 意思決定に当たる者及びその特性把握
  5. ステークホルダー及び利害関係の構造
  6. 予算配分の適正性
  7. スケジュール設計の現実性

特にプロジェクトの目的や制約となる条件とその範囲など「後に変更が困難な条件」こそ事前に明確化しておくことが重要です。特に当コンテンツでも取り扱う「目的」はプロジェクトの根幹をなすものです。

目的の不確かさは、諸リスクを内包し、順調な進行を妨げる要因となりえます。

目的の設定を行うための問い

プロジェクトの核心となる「目的」の設定にあたっては、次のような問いを大切にしています。

  • 本プロジェクトにおいては何を遂行するのか?
  • なぜこのプロジェクトを起案し実行に移すのか?
  • このプロジェクトの成功及び失敗を何によって測るのか?

これら三点を基軸に目的の明確化を図ります。

単純明快に見える問いかけに見えるかもしれません。

しかし、発注者が自らの言葉で明言できていない状況や、ステークホルダーの多さに比例して意見が拡散する場合は、より詳細なヒアリングや集約作業に多大な時間を要することも考えられます。

プロジェクトの成否を判定する基準にあたっては、具体的な数値目標が重要な役割を果たすとこともあります。しかし数値目標は企業側で定義されるものであることも多く、プロジェクト側で設定できないケースも存在します。

従って、数値目標の達成だけに注力するのではなく、目指すべき方向性を明示するためにこれを用います。

目的をより深く理解する

デザインという属性を帯びたワークフローを進めるに際して、またその他の場面においても、我々の注意は表面的なレベルに留まるべきではなく、より深層的な方向に向けられるべきです。

「新規のWebサイトを作成したい」「Webサイトをリニューアルしたい」などといった要望は達成しようとする目標そのものではなく、その目標に至る手段としての性格を帯びています。

従って「クライアントが実際に成し遂げたいと願っていることは何か?」というより深いレベルに視線を移すことが求められます。

「新規のWebサイトを作成 / リニューアルしたい」という類のオーダーは、表面的な要望に他なりません。深層的な要求を把握するためには、「なぜそのWebサイトを作るのか?」という問いかけが不可欠です。

例を挙げれば、以下のような要望が考えられます。

  • 例1.将来的なマーケティングやブランディングの一環として情報発信を行いたい。
  • 例2.簡素なものであっても、取引先に提示することで安心感を醸成し、スムーズな取引を実現したい。
  • 例3.競合するブランドに対する新規性を取り入れ、優位性を確立したい。

など、これらのそれぞれの要望により、選択すべき技術、構成、ページ数などは大きく異なってくるのです。

例1を題材にさらに洞察を深めるのであれば、

「同業種の諸企業は情報発信に積極的ではなく、情報発信を実施している企業であってもサイトが古い、視認性に課題があるなど、決してデジタル上で優位性を築けているとは言い難い状況である。高度な専門性を要求される市場環境において自社が競争上の優位性を確立するためには、古いデザインからの脱皮を図りつつ、持続的な情報発信を通じてブランドイメージの向上を図るべきだと考えている」といったように噛み砕くことも可能です。

すなわち、依頼における深層的要求とは「デザインによって達成したい要求事項」と同義と考えられます。

プロジェクトにおける手段と目的の混同を避ける

プロジェクトの目標が明瞭化されると、デザインが担うべき役割も明瞭化されます。デザインチームのパフォーマンスも向上し、関係者の意思決定の揺らぎも最小化されるはずです。

しかしながら曖昧な目的を土台とした場合、デザインの創出は困難を極めるでしょう。かつ、その過程でステークホルダーの満足を得ながら終結点に至ることは稀有です。

例として「Webサイトをリニューアルしたい」というオーダーに対してヒアリングを行ったとしましょう。クライアントの要望である「ブランドイメージを刷新したい」という回答を鵜呑みにし、プロジェクトの指針とするのは早計だと考えられます。

それは、「ブランドイメージの刷新」という手段に過ぎず、最終的な目的ではないからです。

リニューアルを検討するに至った背景や関連要素を徹底的に検証し、本来のニーズを探る必要があります。

途中でプロジェクトに参加した場合、「曖昧」と感じる前提事項にどう向き合うべきか

既に審議を重ねたと考えられるプロジェクトに途中から加わるは特に注意が必要です。

不明瞭な前提条件が存在するにも関わらず、まるで全員の合意が成立しているかの如くプロジェクトが進行する事態も見受けられるためです。

中途半端な段階で合流した参加者は、既にコンセンサスが形成されているという印象を受けることがありますが、これが原因で前提条件の再確認が疎かにされてしまうのです。

不透明な前提条件を放置してしまい、「後に詳細が明確になるだろう」「この指針で進めれば大きな誤差は生じないだろう」といった軽率な仮定を設けてプロジェクトを進行することは非常に危険です。このような態度は、見解の不一致による作業の手戻りが発生する可能性を想定できず、実質的に時限爆弾を抱えてプロジェクトを開始することに他なりません。

様々な変数を含むプロジェクトでは、進行の途中で見解、認識の不一致が露わになりがちです。日々のルーチンワークとは業務の特性が大きく異なるためです。

「顕在化しているリスクを見て見ぬ振りをすること」、その態度そのものがプロジェクトのリスクと成り得ます。

この態度はプロジェクトの進行に著しい障害を与えかねないため、曖昧な前提条件は早期に解消しておく必要があります。

手段に固執し、「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」状態となってしまう危険

「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」(If all you have is a hammer, everything looks like a nail.)という言葉があります。著名なアメリカの心理学者、アブラハム・ハロルド・マズローの言葉です。

人が特定のツールやスキルを持っていると、彼らはそのツールやスキルが適用可能な場面ばかりを探すようになる、という意味です。新しい情報や異なる視点を探求することを妨げてしまい、他の多くの解決策や視点を見落としてしまう可能性があります。

簡単な例を考えてみます。

「Webサイト制作」のプロジェクトに際してのヒアリングの過程において、クライアントから提示された目標が「売上増加」だった場合を仮定しましょう。

この目標は、Webサイト制作に対する直接的な成果として捉えるには相応しくない場合があります。Webサイトの構築自体が売上の増加に直接的に作用するわけではないためです。Webサイトはブランドやビジネスをユーザーに伝えるために有効に機能するため、間接的に売上増加に寄与することはあれど、Webサイトそのものが十分な利益を生み出すことは稀です。

売上を直接伸ばす戦略は様々に存在します。

例を挙げれば、

  • 営業戦略の全面的な見直し
  • 営業人員の数の増加及びその教育
  • 作業マニュアルの策定
  • 広告手段の再考
  • 提携企業の選定等

など、これ以外にも多くの手法が存在しますが、売上増加を最も重要視している場合は売上向上を得意とする専門のパートナーと協働することが、実効性の面で最も望ましいと考えられます。

目的を整理していった結果、Webサイト制作が最適な回答でない場合、柔軟にプロジェクトの見直しを行う、売上増加に関するプロジェクトも併行して進めるなどの対応を行うことが大切です。

時にはプロジェクトを解体すること、断ることの重要性

クライアントの目的が私たちのデザインで解消されないと明らかに判断できる場合、プロジェクトへの参加をお断りすることもあります。

オーダーに対して条件反射的に自社のプロダクトを押売りする姿勢は真にソリューションを提供しているとは言い難いものです。相互の利益となる結果を出すためにも、無理にプロジェクトを推し進めることは慎まなければなりません。

また、仮にWebサイト制作が目標達成に対して適切なソリューションであるとしても、期日や予算等の制約が適切でなければ、期待される品質を維持することが困難である可能性が高くなります。

双方が納得できる解決策を見出せることが理想的ではありますが、それが難しい場合は、プロジェクトの根本的な再検討も視野に入れる必要があります。

互いに負うリスクを不用意に増大させるよりも、プロジェクトの中断や解体を含めた慎重な判断が重要な場合も存在します。

優れた成果物を創出するためには互いの相互理解が前提となる

要求事項が明確でない場合には、採択すべきデザイン案の選定基準も不確定となりがちです。最終的には個々人の主観的好みに基づく選択が行われる事態も稀ではないのが現実です。

目標が設定されていない状況でのプロジェクトやデザインの開始は、ルールの認識なきままゲームに臨むことに他なりません。得点の方法を理解していない者は、勝利を望むことはおろか、他者のプレーに対する評価を遂行する能力すら有していないのです。

要件や目的といった評価基準が設けられない限り、制作者はプロジェクトの推進方法を見出すことが困難となり、同時にクライアントも成果物に対する評価の視点を維持することは叶いません。

優れた成果を導出するための基盤は、双方の深い相互理解、すなわち対話と傾聴にあります。明瞭な要望とそれに適合する明確な解決策の一致が、成功を収めるプロジェクトにとっての基本要件だと考えています。

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