0
  • Insights
  • Kazuya Nakagawa

静かに進む書店の減少と電子書籍時代の新たな読書文化

私は書店に行くことが多く、書店独特の空気感や綺麗に陳列された書籍を見るとテンションが上がりますが、購入する頻度は昔に比べ減少しました。

それは電子書籍の登場が影響しており、書店で気になった書籍をネット検索し、電子書籍で購入といった流れが当たり前となりました。

紙質や装丁など本のよさはあるものの、その便利さから基本的には電子書籍で事足りてしまうのです。

電子書籍の登場は、書店数が減少していることにもつながっています。かつては書店がなくなるなんてことは想像すらしていませんでしたが、時代とともに減少傾向にあるのは確かです。

今後、書店と電子書籍が共存できる未来への可能性について考えてみたいと思います。

静かに進行する書店の減少

街の風景から次々と姿を消していく書店。

数字で見ると、日本の書店数の減少は深刻です。日本出版インフラセンターによると、2023年度の書店総店舗数は全国で1万918店。10年前と比較すると3割以上も減少しています。

2023年度だけで614店が閉店した一方、新規開店はわずか92店に留まっており、このペースが続けば、日本の書店数は今後も減少の一途をたどるでしょう。

さらに書店がない市区町村は2024年8月末時点で、全国の27.9%に及ぶとされています。これは単に本が買えないという問題だけではなく、地域の文化的拠点が失われることを意味しています。

デジタル化がもたらした出版業界の構造変化

これまで出版業界は、定期的に刊行される雑誌を中心とした薄利多売のビジネスモデルで成り立っていました。週刊誌や女性誌、コミック誌などが安定した収入源となり、出版社、書店、取次会社の生態系を支えていたのです。

しかし、インターネットやSNSの普及により情報消費の形態が変化し、雑誌市場は急速に縮小しました。書店は売上だけでなく、定期的に来店する習慣を持つ顧客も失いました。

さらに、2000年に日本市場に参入したAmazonをはじめとするネット書店の成長も、実店舗の書店に大きな影響を与えています。

2023年度の出版物販売額を見ると、全体の約58%が実店舗の書店、約21%がネット書店となっていますが、この比率は年々ネット書店側に傾きつつあります。

さらに深刻なのは読書習慣そのものの変化です。1ヶ月に本を1冊も読まない人が全体の6割を超えるというデータも存在し、単に購入場所の移行だけでなく、読書文化そのものの衰退が懸念されます。

海外の書店支援策から学ぶべきこと

日本の出版流通システムには構造的な課題が存在します。

委託制度と呼ばれる売れ残り本を返品できるシステムは、書店側のリスク軽減につながる一方で、積極的な販売意欲を削ぐ側面も持ち合わせています。

海外では書店が本を買い取って販売するケースが主流で返品率も低く抑えられていますが、日本の返品率は書籍で33.4%、雑誌では42.5%に達しています。

諸外国では書店を文化的資産と位置づけ、様々な支援策を展開している例が見られます。

フランスでは2021年にカルチャー・パス制度を導入し、15~18歳の若者に年齢に応じて20ユーロ(約3200円)から300ユーロ(約4万8000円)を支給。書籍や漫画の購入、コンサートや美術館の入場などに使えるようにしています。また、コロナ禍では書店を「生活必需品商業施設」と位置づけ、ロックダウン中も営業を認めました。さらに、書店の出店や改装を支援する助成金制度も設けています。

ドイツも紙の書籍を「文化財・文化資産」として保護し、フランスと同様のカルチャー・パス制度を取り入れています。職業訓練を経て国家認定の書店員になれる制度もあります。

韓国ではネット書店の大幅割引による書店減少に対し、図書定価制の強化や出版文化産業振興法の改正で対応。その結果、地域に根ざした個性的な書店が増加に転じました。

韓国出版文化産業振興院が中心となり、文化プログラムやサイト運営、魅力的な本棚作りなどを支援しています。キャッシュレス決済の普及に伴い、小規模書店を含めた中小企業のクレジット手数料も軽減されています。これらの施策により、2015年に2165店だった書店数は2021年に2528店まで回復しました。

変わりゆく読書文化と出版の未来

電子書籍の普及は、読書体験を大きく変えつつあります。「本を読む」という行為自体は変わらなくても、「本を選ぶ」「本を買う」「本を所有する」という周辺体験は大きく変化しました。

かつて書店で偶然出会った本が新たな発見につながることも少なくありませんでした。電子書籍ではアルゴリズムによるおすすめが主流となっているため、偶然の出会いが減少しているように感じます。

電子書籍の普及は、出版業界にも変革をもたらしています。紙の書籍では採算が合わなかった小部数のニッチな本でも、電子書籍なら出版可能になるケースが増加。

これにより自費出版や個人出版のハードルも下がり、多様な声が「本」という形で世に出る機会が広がったように感じます。

また従来型の書店が苦戦する中、独自の魅力で顧客を惹きつける新しいタイプの書店も登場しています。

例えば、特定のジャンルに特化した専門書店や、カフェやギャラリースペースを併設した複合型書店などは、単なる「本の販売場所」を超えた体験を提供しています。こうした書店では、オーナーや店員による選書や店内の雰囲気づくりにこだわり、来店者に特別な体験を提供しています。

デジタルと実店舗の融合も進んでいます。書店内にタブレット端末を設置し、店頭にない本でも検索・注文できるシステムを導入する書店や、ARアプリを活用した書籍情報の提供、SNSと連動したイベント開催など、テクノロジーを活用した新たな取り組みも始まっています。

こうしたハイブリッドな取り組みは、書店と電子書籍関係なく共存できる可能性を示しています。両方の良さを生かしながら、多様な読書体験を提供する。そんな未来の形が見えてくるのではないでしょうか。

近年では多くの書店チェーンがこうした取り組みを強化しており、単なる「本を売る場所」から「読書体験を提供する場所」へと変化しつつあるように感じます。

今後は書店と電子書籍の役割が明確になるのではないでしょうか。

書店は単なる「本を売る場所」から「読書体験を提供する場所」へと進化し、電子書籍は技術革新によりさらに使いやすく多様化していくでしょう。

日本独自の出版文化を守りながらも、デジタル時代に適応した新たな読書文化の形成に向けて動き出すべきタイミングが訪れているのかもしれません。

See works

Kazuya Nakagawa