「10年後には、今ある仕事の多くがなくなる。」
10年ほど前、AIやロボットの進化について語られるとき、そんな未来予測を目にする機会がよくありました。
自動運転が普及すれば、ドライバーは必要なくなるかもしれない。セルフレジが広がれば、レジ係は減っていく。事務作業の多くも、いずれコンピューターが担うようになる。
当時はまだ、少し先の未来に思えた話です。
その議論を象徴するもののひとつが、2015年に野村総合研究所(NRI)と英オックスフォード大学の研究者が発表した共同研究でした。
対象となったのは、日本国内の601種類の職業。
分析の結果、10〜20年後には、日本の労働人口の約49%が就く職業で、人工知能やロボットなどによる代替が技術的に可能になると推計されました。
「約49%」という数字だけを見ると、かなり大きな変化が起こるように感じますね。
この研究では、人工知能やロボットによる技術的な代替可能性が推計されました。将来の失業者数を直接示したものではありません。
実際に人から機械へ仕事が移るかどうかには、人手不足や需要、導入コスト、制度など、社会や経済の状況も関わってきます。こうした要因は、当時の試算には含まれていませんでした。
それから、およそ10年。
セルフレジは珍しいものではなくなり、スマートフォンだけで済ませられる手続きも増えました。工場や物流の現場ではロボットが働き、自動運転の実証も各地で進んでいます。
では、2015年に「代替可能性が高い」とされた仕事は、その後どうなったのでしょうか。
本当に働く人は減ったのか。予想とは違う変化が起きているのか。
当時の予測と公的統計の数字を並べながら、答え合わせをしてみます。
2015年に描かれていた仕事の未来
まずは、当時どのような仕事が「代替可能性が高い」と考えられていたのかを見ていきましょう。
NRIが2015年に公表した資料では、人工知能やロボットなどによる代替可能性が高い職業として100種類が示されています。
今回取り上げるのは、その中でも私たちの暮らしや仕事に身近な32項目。分野ごとに整理すると、次のようになります。
- 事務・金融:一般事務員、経理事務員、人事係事務員、医療事務員、銀行窓口係、貸付係事務員、保険事務員、データ入力係
- 店舗・サービス:レジ係、スーパー店員、受付係、ホテル客室係、レンタカー営業所員、クリーニング取次店員
- 交通・物流:タクシー運転者、路線バス運転者、電車運転士、宅配便配達員、倉庫作業員、積卸作業員、郵便外務員
- 製造・建設:自動車組立工、自動車塗装工、金属プレス工、電子部品製造工、プラスチック製品成形工、建設作業員
- そのほか:警備員、検針員、行政事務員、測量士、有料道路料金収受員
※NRIの資料では「行政事務員(国)」と「行政事務員(県市町村)」がそれぞれ掲載されています。本記事では、両者をまとめて「行政事務員」として扱います。
こうして見ると、事務や販売に限らず、運転、物流、製造、建設まで幅広い仕事が含まれています。
では、代替のしやすさを分けるものは何だったのでしょうか。
研究で示されたポイントのひとつが、仕事で求められる能力の違いです。
特別な知識やスキルを必ずしも必要としない仕事に加え、データを分析したり、決められた手順に沿って情報を処理したりする仕事は、人工知能やロボットによる代替可能性が高いとされました。
創造性や他者との協調、説得、交渉などが求められる仕事については、代替可能性が低い傾向にあります。
決められた手順を繰り返すのか。状況に応じた判断が必要なのか。人とやり取りしながら答えを探すのか。
同じ「仕事」でも、中で行われている作業の性質はさまざまです。こうした違いが、人工知能やロボットによる代替のしやすさを分ける要素として考えられていました。
数字でたどるその後の仕事
では、実際の数字を見ていきます。
本来であれば2015年と2025年を比べたいところですが、2025年国勢調査のうち、職業小分類まで確認できる「抽出詳細集計」はまだ公表されていません。
そこで今回は、総務省「就業構造基本調査」を中心に、2017年と2022年の5年間を比較しました。
就業構造基本調査だけでは確認しにくい仕事については、労働力調査や業界統計を補足的に使用しています。また、NRIの職業名と公的統計の分類が一致しない場合は、近い職業分類や関連する産業・組織全体の数字を参考値としました。
2017年から2022年までの増減率を並べたのが、次のグラフです。

2017年から2022年までの就業者数の増減率
今回掲載した増減率の中で、もっとも大きな減少となったのはタクシー運転者で、約20.5%減。自動車塗装、自動車組立、レンタカー営業所員なども10%を超えて減っています。
一方、人事に関わる事務は約19.6%増、データ入力は約13.2%増、倉庫作業員は約12.8%増となりました。医療事務員の参考値としている「医療・福祉」も約11.3%増えています。
経理事務は約0.03%減、販売店員を参考値とするレジ係・スーパー店員は約0.5%増と、ほぼ横ばいでした。
同じように代替可能性が高いとされた仕事でも、その後の動きは減少、横ばい、増加と分かれています。
| 仕事 | 2017年 | 2022年 | 変化 |
| 一般事務員 | 約910.7万人 | 約991.3万人 | 約8.8%増 |
| 経理事務員 | 約207.1万人 | 約207.0万人 | 約0.03%減 |
| 人事係事務員 | 約157.4万人 | 約188.2万人 | 約19.6%増 |
| 医療事務員※(参考:医療・福祉) | 約816万人 | 約908万人 | 約11.3%増 |
| 銀行窓口係※(参考:全国銀行職員数) | 約29.9万人 | 約26.5万人 | 約11.5%減 |
| 貸付係事務員※(参考:全国銀行職員数) | 約29.9万人 | 約26.5万人 | 約11.5%減 |
| 保険事務員※(参考:金融業・保険業) | 約168万人 | 約160万人 | 約4.8%減 |
| データ入力係 | 約11.7万人 | 約13.3万人 | 約13.2%増 |
| レジ係※(参考:販売店員) | 約389.2万人 | 約391.2万人 | 約0.5%増 |
| スーパー店員※(参考:販売店員) | 約389.2万人 | 約391.2万人 | 約0.5%増 |
| 受付係 | 約42.7万人 | 約43.3万人 | 約1.6%増 |
| ホテル客室係※(近似分類) | 約115.3万人 | 約104.6万人 | 約9.3%減 |
| レンタカー営業所員※(近似分類) | 約7.9万人 | 約6.8万人 | 約14.0%減 |
| タクシー運転者 | 約27.3万人 | 約21.7万人 | 約20.5%減 |
| 路線バス運転者※(参考:自動車運転従事者) | 約162.4万人 | 約155.3万人 | 約4.4%減 |
| 電車運転士 | 約4.61万人 | 約4.43万人 | 約3.9%減 |
| 宅配便配達員※(近似分類) | 約75.4万人 | 約74.9万人 | 約0.5%減 |
| 倉庫作業員 | 約29.3万人 | 約33.1万人 | 約12.8%増 |
| 積卸作業員※(近似分類) | 約29.7万人 | 約26.0万人 | 約12.4%減 |
| 郵便外務員 | 約12.0万人 | 約11.4万人 | 約5.3%減 |
| 自動車組立工 | 約39.5万人 | 約33.8万人 | 約14.6%減 |
| 自動車塗装工※(近似分類) | 約29.6万人 | 約24.9万人 | 約15.6%減 |
| 金属プレス工 | 約7.29万人 | 約7.34万人 | 約0.7%増 |
| 電子部品製造工※(近似分類) | 約52.8万人 | 約51.9万人 | 約1.6%減 |
| プラスチック製品成形工※(近似分類) | 約31.4万人 | 約30.8万人 | 約1.9%減 |
| 建設作業員※(近似分類) | 約224.6万人 | 約196.5万人 | 約12.5%減 |
| 警備員 | 約39.2万人 | 約40.6万人 | 約3.4%増 |
| 行政事務員※(参考:公務) | 約230万人 | 約251万人 | 約9.1%増 |
| 測量士※(参考:土木・測量技術者) | 約30.2万人 | 約31.1万人 | 約2.7%増 |
※「参考」と記載した項目は、職種単独ではなく、近い職業分類や関連する産業・組織全体の数字を使用しています。「近似分類」についても、NRIの職業名と公的統計の分類は完全には一致しません。クリーニング取次店員、検針員、有料道路料金収受員は、同じ条件で比較できる数字を確認できなかったため除外しました。
ここで押さえておきたいのが、就業者数を動かす要因の多さです。
需要の変化、人手不足、人口構成、産業構造、生産体制など、人数の増減にはさまざまな事情が関わります。自動化によって作業が効率化されても、需要が伸びれば人手が必要になることもあります。
そのため、増減率を見るだけでは、AIやロボットがどこまで影響したのかは分かりません。
ここからは、銀行・小売、交通、製造・物流、事務の順に、数字の背景をもう少し詳しく見ていきます。
自動化が進んだ銀行と小売のいま
銀行や小売店は、この10年ほどで自動化を身近に感じるようになった分野です。
銀行ではATMに加え、振り込みや残高確認、各種手続きの一部までスマートフォンで完結できるようになりました。窓口へ行かなくても済む場面は、以前より確実に増えています。
全国銀行協会の統計を見ると、全国銀行の職員数は2017年度末の29万9,121人から、2022年度末には26万4,806人へ減少しました。
5年間で約3万4,000人、割合にすると約11.5%減です。
ただ、この数字には窓口係だけでなく、銀行で働くさまざまな職種が含まれています。加えて、この期間には銀行の合併などもあり、集計対象となる銀行数も変化しました。
その一方で、窓口で行われていた定型的な手続きの一部がデジタルへ移ったことも事実です。
では、窓口に残った仕事は何だったのでしょうか。
現在も銀行では、資産形成や相続、住宅ローンなど、人とのやり取りを伴う相談業務が行われています。手続きの一部が自動化されるなかで、窓口の役割も少しずつ変わってきました。
似た動きは、小売店でも見られます。
スーパーやコンビニではセルフレジが広がり、商品の読み取りから支払いまで利用者自身で済ませられる店舗が珍しくなくなりました。
かつてレジ係が担っていた「商品を読み取り、代金を受け取る」という作業の一部は、すでに機械へ移っています。
レジ係の参考値として見ている「販売店員」は、2017年の約389.2万人から2022年には約391.2万人となり、約0.5%増でした。
販売店員には、レジ係以外の職種も含まれています。それでも、セルフレジが広がった時期に、販売店員という大きな括りでは人数がほとんど変わっていない点は興味深いところです。
店舗では、品出し、商品案内、発注、売場づくり、バックヤードでの作業など、さまざまな業務が行われています。
銀行と小売店では、定型的な作業の一部が機械へ移るなかで、人に求められる役割も少しずつ変化してきたことが分かります。
タクシー運転者が減った背景にあったもの
今回掲載した増減率の中で、もっとも大きな減少となったのがタクシー運転者です。
法人タクシーの運転者数は、2017年度の27万3,126人から、2022年度には21万7,161人まで減少しました。
5年間で約5万6,000人、割合にすると約20.5%減です。
ここで思い出すのが、10年ほど前に語られていた自動運転の未来です。
当時は、自動運転技術が進めば、将来的にタクシーやバスの運転を機械が担うようになると考えられていました。
それから約10年。自動運転の実証や社会実装は進んでいますが、2026年時点で国内のタクシーが広く無人運転へ置き換わった状況にはありません。
では、なぜタクシー運転者はこれほど減ったのでしょうか。
大きな要因のひとつが、比較期間の後半に重なるコロナ禍です。国土交通省によると、バス・タクシー事業では新型コロナウイルス感染症の拡大によって、輸送人員や運送収入が大きく減少しました。そのなかで運転者も減り、人材不足が深刻化しています。
タクシー業界では以前から運転者の不足や高齢化が課題となっていました。2022年には、第二種運転免許の受験資格も見直され、一定の教習を修了した場合は19歳から受験できるようになっています。
2017年度から2022年度にかけての大幅な減少には、コロナ禍による需要の落ち込みに加え、高齢化や担い手不足といった複数の要因が重なっていたと考えられます。
バスにも似た課題があります。
今回参考にした就業構造基本調査の「自動車運転従事者」全体では、2017年から2022年にかけて約4.4%減少しました。
この分類には路線バス運転者以外も含まれるため、約4.4%をそのままバス運転者の減少率として見ることはできません。ただ、バス事業でも運転者不足を背景とした減便や路線の見直しが各地で進んでいます。
今回の期間を見る限り、タクシーやバスの運転者数には、需要の変化、高齢化、担い手不足といった要因が大きく関わっています。
当時想像されていた「自動運転が広がり、運転手が減っていく」という順序とは、少し違った変化が起きています。
製造と物流で分かれた働く人の数
製造や物流は、ロボットや自動化設備の導入が比較的早く進んできた分野です。製造現場では、溶接、塗装、組み立て、搬送といった工程で産業用ロボットが活用されています。
就業者数の動きを見ると、職種によって大きな違いがあります。
2017年から2022年を見ると、自動車組立従事者は約39.5万人から約33.8万人へ減少しました。割合にすると約14.6%減です。
自動車塗装工の近似分類でも約15.6%減となっており、比較的大きな落ち込みとなっています。
一方、金属プレス従事者は約7.29万人から約7.34万人へ微増しました。ゴム・プラスチック製品製造に関わる分類も、減少幅は約1.9%にとどまっています。
物流でも結果は分かれました。
倉庫作業員は2017年の約29.3万人から、2022年には約33.1万人へ増加しており、約12.8%増です。
物流倉庫では、自動搬送ロボットや自動仕分け設備の導入が進んでいます。それでも、倉庫作業員の人数は増えています。
積卸作業員の近似分類として見ている陸上荷役・運搬従事者は、約29.7万人から約26.0万人へ減少しました。約12.4%減です。
同じように自動化が進む製造・物流でも、職種によって就業者数の動きは異なります。
その背景には、生産量や国内外の生産体制、人手不足、物流需要の変化など、複数の要因があります。
とくに物流では、ネット通販の拡大によって扱う荷物が増えれば、ひとつの工程を効率化しても、別の工程で人手が必要になることがあります。
自動化の進展と就業者数の増減は、単純な比例関係では捉えにくいようです。
代替されやすいとされた事務職のその後
AIによって代替されやすい仕事として、現在もたびたび名前が挙がるのが事務職です。
定型的な入力や集計、書類作成など、コンピューターと相性のよい作業が多いことも、その理由のひとつでしょう。
2017年から2022年までの数字を見ると、事務職の動きにはばらつきがあります。
一般事務従事者は約910.7万人から約991.3万人へ増加。人事に関わる事務も約157.4万人から約188.2万人へ、データ入力は約11.7万人から約13.3万人へ増えています。
経理に関わる会計事務従事者は約207万人で、ほぼ横ばいでした。
少なくとも2022年までの比較では、2015年に代替可能性が高いとされた事務職で、就業者数が大きく減少する傾向は確認できません。
ただ、生成AIが広く使われ始めたのは2022年以降の出来事です。今回の数字には、その影響がまだ十分に表れていない可能性があります。
2025年国勢調査の職業小分類まで確認できる「抽出詳細集計」が公表されれば、生成AIの普及後に事務職がどう変わったのかも、もう少し詳しく見えてきそうです。
生成AIとともに次の10年へ
2026年のいま、私たちは再び似た問いに向き合っています。
その中心にいるのは生成AIです。
文章を書くことや画像生成、大量の情報整理など、2015年当時には少し先の未来に思えたことを、AIが日常の中でこなすようになりました。
影響が語られる仕事も、ライター、デザイナー、エンジニア、事務、翻訳などさまざま。これまで人が担ってきた作業の一部は、すでにAIへ移り始めています。
これから注目したいのは、どの作業がAIへ移り、その結果として人がどんな役割を担うようになるのかという点です。さらに、新しい技術によって生まれる仕事や需要もあるでしょう。
この約10年を振り返ると、仕事の変化は職種によって異なりました。
減った仕事もあれば、ほぼ変わらなかった仕事、増えた仕事もあります。その内側では、機械に任せる作業と、人が担う役割の組み替えも進んできました。
そして、次の答え合わせは2036年です。
今から10年後に振り返ったとき、私たちはどんな景色を見ているのでしょうか。
いま人が当たり前のように行っている作業の中には、AIや機械へ任せることが普通になっているものもあるはずです。AIの影響が大きいと考えられていた仕事でも、多くの人が働き続けているかもしれません。
現在ではまだ名前すら思い浮かばない、新しい仕事が生まれている可能性もあります。
今回、2015年に代替可能性が高いとされた仕事を振り返って見えてきたのは、技術の進歩だけでは、その後の就業者数まで予測しきれないということでした。
需要、人手不足、産業構造、そして仕事の中身そのものの変化。さまざまな要因が重なりながら、働き方は少しずつ変わっていきます。
生成AIが急速に広がるいまも、働き方は変化の途中にあります。10年後には、どんな仕事が残り、どんな役割が変わり、どんな新しい仕事が生まれているのでしょうか。
2036年になったら、もう一度数字を並べて答え合わせをしてみたいところです。そのとき、どんな景色が見えているのか、楽しみにしておきたいですね。