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黙考と音 – 8月「微熱」

8月も最終営業日に差し掛かりました。まだ暑さは衰えを知りません。

気づけば、弊社の第3期も今日で幕を閉じようとしています。

この一年を振り返ると、うまくいったこともあれば、反省すべきことも数え切れないほどありました。

燃えそうなのに燃えないような。炎の残り香のような熱がどこかに常に残っているような。正気でいつつもどこか正気とは異なる世界を見ているような。

この一年はそんな「微熱」のような時間だったように思うのです。

可能性の火種をそっと守るような、そんな微熱

「微熱」。

平熱より、ほんのわずかに高い温度を指す言葉です。

今回は、体調としての微熱ではなく、心の奥でふと立ち上がる「感情的な微熱」について考えたいと思います。体温計で測れる数値ではなく、むしろ私たちの内側にひそむ揺らぎや高まりを示す温度のような微熱。

平熱の時、世界ははっきりと輪郭を保っています。物事は切り分けられ、秩序立ち、冷静に俯瞰できるような感じ。

けれど、微熱に包まれるとき、その輪郭はふと溶けはじるように思えます。理性と感情の境界が小さくほどけ、世界との距離が少しだけ変わる感覚があります。

微熱はまだ燃えさかる炎ではありませんが、冷たさにも沈まない、そんな状態です。心の奥に沈殿していた何かがかすかに揺れ、立ち上がろうとするような、そんな揺らぎの状態。

正しく向き合えるなら、それは衝動の兆しであり、創造のはじまりでもあるのでしょう。もしかするとこの揺蕩いこそ微熱という言葉が秘める本質なのかもしれません。

この一年を思い返すと、その境界を行き来していたような感覚があります。

完全には燃え上がらず、しかし確かに温度を宿し続ける日々。微熱という曖昧な温度の中で、可能性の火種をそっと守るような時間。

どこか祈りにも似た一年でした。

思えば、人はずっと「平熱」のままでは生きられないのかもしれません。

理性の外側で、まだ名づけられない熱を抱えながら、夢と現実の狭間で揺らぎ続けなくてはならないのかもしれませんね。

しかし、その小さな揺らぎこそが、次の一歩を踏み出すための静かな予兆なのだと思います。

2025年8月のプレイリストを作りました

暑い時期です。少し涼しくなるような曲を聴きたくなりますね。けれど、ただ涼しいだけではどこか物足りないものです。

涼しげなのに、内側でかすかに熱を孕んでいる音。触れれば揺らぎ、離れれば遠くでまだ燃えているような気配。

今回のプレイリストは、そんな曖昧な温度をもつ音たちを集めてみました。静けさの奥にひそむ小さな熱のようなものに耳を澄ませてみたくなりまして。

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Kentaro Matsuoka