0
  • Interests
  • Kentaro Matsuoka

「旅情4」栃木 – 渓谷と地底に遊び、おもてなしに想う

2023年9月、家族旅行企画の第4弾として栃木を選びました。

9月9日は私の誕生日。「せっかくならちょっといい旅館に泊まってみたいよね」という話から、かねてより興味のあった星野リゾートへの宿泊を決め、家族そろって出かけることにしました。

8月末に決算を終えたばかりだったこともあり、これからの方向性に少々迷いを感じていた自分にとって、この旅は大きな意味を持つものとなりました。豊かな自然の中で心を落ち着け、これまでを振り返る。そんな穏やかな時間を過ごすことができました。

鬼怒楯岩大吊橋 – 深い緑に包まれて

鬼怒楯岩大吊橋

最初に訪れたのは、鬼怒楯岩大吊橋。

高さ約37メートルの橋の上からは鬼怒川の急流が大岩を縫うように流れ、周囲には深い緑の山々が広がっていました。

鬼怒楯岩大吊橋からの景観

鬼怒楯岩大吊橋からの景観

鬼怒楯岩大吊橋

橋の上から眺める景色はただただ美しく、心が洗われるようでした。足元を流れる川の音を聞きながら、しばらくその場に佇んでいました。

橋を渡り終えて、周辺を散策することに。

階段を登り、坂を進んでいくと、やがて「楯岩トンネル」に辿り着きます。

鬼怒楯岩大吊橋散策

全長72メートルのこの場所は「母なる体内洞」とも呼ばれており、昼間でも闇に包まれるほどの暗さです。

手探りで歩を進め、トンネルを抜けると、大きな木々に囲まれた静寂の空間が広がっていました。

さらに足を延ばし、透き通る川底が印象的な「古釜の滝」へ。吊り橋を渡ったあと、展望台とは逆方向へ進むと辿り着きます。

二段に流れ落ちる小さな滝ですが、透明度の高い水が穏やかに流れ落ちる光景は、まるで時間が止まったかのような静けさに満ちていました。

水音に耳を澄ませながら静かに過ごすひととき。

旅の始まりにふさわしい場所でした。

龍王峡 – 虹見の滝と渓谷美

次に向かったのは、鬼怒川の渓谷美を楽しめる龍王峡。

趣深い店店が並ぶ風情ある店先を抜けると、深い渓谷へと続く階段が現れます。

龍王峡の景観はまさに幽玄そのもの。奇岩怪石が連なり、その間を流れる鬼怒川の水は澄み切っています。

太陽の光が当たると美しい虹が架かることから名付けられた「虹見の滝」の流れは、静かな詩情を湛えていました。渓谷の途中には「虹見橋」も架かります。

虹見橋

今から約2,200万年前、海底火山の噴火によって生まれた火山岩が、長い年月をかけて鬼怒川の流れに削られ、今の姿になったといいます。昭和25年、この雄大な景色が龍の姿を思わせることから「龍王峡」と名付けられました。

鬼怒川・川治温泉の守り神とされる龍王を祀った五龍王神社も鎮座しています。この神社は龍王峡という渓谷名の起源にもなっており、江戸時代中期の文政年間に創建されたそうです。

滑りやすい足場に、子どもが転ばないか気がかりでしたが、最後までしっかりと歩いてくれました。

星野リゾート『界 川治』- おもてなしの心、価格と価値への向き合い方

今回の旅行の目的の一つでもあった宿へ到着します。

ここでの滞在はただの「宿泊」ではなく、まさに「体験」でした。

スタッフの方々の細やかな気遣い、地域文化を感じさせる設え、そして地元の伝統工芸品を活かしたインテリアの数々。

どこを取っても、一流のおもてなしとは何かを教えてくれる時間となりました。

ブランドによるとはいえ、星野リゾートは決して安価な宿ではありません。それでも人々が集い続ける理由を、この滞在で実感しました。

価格以上の満足感を提供すること。これは、どの業種にも通じる仕事の本質なのかもしれません。

当時の弊社は、質よりも量を重視した発注を多く頂戴している状況でした。安価な仕事はしばしば無理な要求を伴い、結果として現場を疲弊させてしまいます。そのことを以前から実感していながら、なかなか質重視への転換を決断できずにいました。

しかし、私たちは金額で勝負する会社ではなく、良いものを提供する会社でありたい。我々の費用感とお客様の予算感が合わなければ、それはマッチングしなかっただけの話なのでしょう。

向学心が高く、品質に真っ直ぐに向き合ってくれている社員たちがいる。だからこそ、自信を持って適正金額でサービスを提供していこうと、改めて考えました。

そして何より、おもてなしの心を忘れてはいけないと感じました。決して安くないお金をお預かりする以上、しっかりと寄り添うことを大切にしたい。信頼してくださるお客様に感動いただくためにも、サービスを常に磨き続けなければいけません。

この文章を書いている2025年2月時点でも、まだ十分にそれができているとは言えません。しかし改めて品質と寄り添う気持ちを大切に、お客様に向き合っていこうと思います。

そんな大切なことに気づかせてくれたこの場所は、老朽化などを理由に2024年10月をもって運営が終了し、売却されてしまいました。

この場所との別れは寂しいですが、素晴らしい体験をさせていただいたことに今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

二荒山神社 – 日光山信仰の中心へ

翌日、星野リゾートを後にした私たちは、日光の山岳信仰の中心、世界遺産である二荒山神社を訪れました。

この神社は日光山信仰の始まりとなった古社で、二荒山(男体山)をご神体として祀り、古くから下野国の一の宮として崇められてきました。

宇都宮もこの神社を中心に、平安・鎌倉時代には門前町として、江戸時代には城下町として発展していったそうです。

主祭神は招福や縁結びの神様、大己貴命(おおなむちのみこと)。現在では縁結びのご利益で多くの参拝者を集めています。静寂に包まれた境内をゆっくりと散策させていただきました。

日光東照宮にも足を延ばしたかったのですが、あまりの人出と時間の都合で断念することに。

また機会を改めて訪れたいと思います。

華厳の滝 – 流れ落ちる清冽な轟き

次に向かったのは、日本三名瀑の一つ、華厳の滝。那智の滝(和歌山県)、袋田の滝(茨城県)と並び称される日本を代表する滝の一つです。

日光には四十八滝と呼ばれるほど多くの滝がありますが、その中でも最も有名なのが華厳の滝です。1,200年前、日光開山を行った勝道上人によって発見されたと伝えられています。

「華厳」の名は、かつて近くにあった華厳寺に由来するという説や、仏教経典の華厳経から名付けられたという説があります。

奥日光の玄関口に位置する中禅寺湖は、約15,000年前、男体山の噴火で流れ出した溶岩が川をせき止めてできたといいます。その中禅寺湖の水が、高さ97メートルの岸壁を一気に落下する様は壮大そのもの。

轟音を立てて岩肌を打ちつける水流は、圧倒的な迫力を感じさせます。

爆音とともに弾ける水しぶきは、無骨でありながらも繊細な印象を残します。

山々にかかる霧も幻想的で、この場所でしか味わえない美しい時間を過ごすことができました。

大谷資料館 地下採掘場跡 – 影と光が織りなす静寂の地下迷宮

旅の最後に訪れたのは大谷資料館の地下採掘場跡。

1919年から1986年までの約70年をかけて、大谷石を掘り出してできた巨大な地下空間です。

その広さは2万平方メートルにも及び、野球場が一つ入ってしまうほどの規模。戦時中は地下の秘密工場として、戦後は政府米の貯蔵庫として利用されていたそうです。

眼前に広がる古代の神殿を彷彿とさせる神秘的な光景、冷気の張りつめた巨大な空間、整然と並ぶ柱、幾重にも続く灯された明かりと柱の影。

今回の旅行はどこも圧巻でしたが、この場所は今まで体験したことのない驚きに満ちていました。

この地域の石の文化は、約1500万年前に起こった海底火山の噴火によって膨大な凝灰岩の地層が誕生したことに始まります。

江戸時代に始まった大谷石採掘は、最盛期には年間89万トンを出荷する日本屈指の採石産業として発展し、地下に巨大な迷宮を生み出しました。ここで採掘された大谷石は、フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテル本館などの建造物のほか、庭園の花壇や園路、道路の敷石にも用いられたそうです。

柔らかな大谷石は様々な表現・活用を可能とし、多様なデザインを求めた都市づくりに重宝されたのでしょう。

暗く冷たい圧巻の地下迷宮を進み、地上へ戻った時、息子の顔には「何だかすごいものを見てしまった」という感動が溢れていました。その表情は今でも鮮明に覚えています。

旅の終わりに

期末の追い込みで疲れていた自分にとって、この旅は心を温めてくれる特別な時間でした。

橋から見た絶景、轟く滝の音、日本の歴史を見つめてきた神社、そして地下迷宮。その思い出を支えてくれた、今はなき旅館のおもてなし。

静かな自然の中で家族とともに過ごした穏やかな時間が、大切なことに気づかせてくれました。

改めてこの旅で感じたことを胸に、明日から再度歩みを進めていこうと思います。

See works

Kentaro Matsuoka