4月23日、横浜未来機構様主催の「実証するなら、横浜。実証しやすい街・横浜の支援を知るセミナー」に参加してきました。
弊社はWEBデザインや記事制作を主軸とする企業なため、テック系スタートアップのように実証実験そのものを事業の中心に据えている立場ではありません。ただ、お客様の中には実証実験や社会実装に関わる取り組みを進めていらっしゃる企業様も多く、そうした領域について理解を深めておくことは自分たちの仕事にとってもとても重要だと思っています。
「実証しやすい街」という言葉が何を意味しているのか、その背景にどのような制度設計や都市としての考え方があるのかに関心があり、この機会に参加させていただきました。
セミナーでは、横浜市による実証支援制度の全体像に加えて、内閣官房が進めている規制のサンドボックス制度や、日本の成長戦略と規制改革の関係など、自治体と国の取り組みがどのようにつながりながら実証環境を形づくっているのかを学ぶことができました。
すごく簡単に言ってしまうと楽しかったです。
語彙がひどいですね。
また、個別制度の紹介にとどまらず、「なぜ横浜は実証しやすい街なのか」「実証という営みを社会の中でどのように位置づけようとしているのか」といった視点からも多くの示唆を得る機会となりました。
自分自身の備忘録としての意味も込めつつ、今回のセミナーを通じて印象に残ったことや考えたことを整理してみたいと思います。
横浜市はなぜ「実証しやすい街」なんだろう
さて、僕も住む横浜市は人口約370万人を擁する、日本最大規模の基礎自治体だそうです(恥ずかしながら初めて知りました)。
自治体としてのスケールが大きいということは、それだけ多様な生活環境や都市機能が同時に存在しているということでもあります。商業地、住宅地、港湾、工業地帯、研究機関、大学などがコンパクトな範囲に集積していることもあり、実証実験のフィールドとして扱える選択肢が非常に豊富なようです。
さらに横浜には、グローバル企業の拠点や研究機関が数多く立地しているのも特徴だそうです。
技術基盤と経済基盤の双方が都市の中に蓄積されているのはもしかしたらちょっと珍しいのかもしれません。言われてみれば多いような気もします。
研究者・技術者の割合も約9.8%とされており、東京都の約8.6%を上回っているという点も紹介されていました。これは単に企業数が多いというだけでなく「実証を担う人材が都市の中にたくさん存在している」という意味でも重要な数字だと感じました。
また、スタートアップ支援の文脈でも横浜はちゃんと向き合っているんだなあという点も印象的でした。
テック系スタートアップの成長支援を通じて都市としてのエコシステム形成を目指していることに加え、市の中期計画の中でもサーキュラーエコノミーの推進が掲げられており、都市としてどの領域に力を入れていくのかもはっきり示されていました。
個人的に驚いたのは、2027年以降に100件以上の実証実験が予定されているという点。
そんなにやるんですね実証実験って。
「実証実験を都市の機能として継続的に運用していこうとしているんだよ」という姿勢のように感じられました。
都市規模、人材構成、産業基盤、政策方針といった複数の要素が重なり合うことで、「実証しやすい街」を形成しているのかなと感じました。
自治体だからこそ可能な「実証フィールド」の調整力
横浜市の実証支援はただ単にスタートアップを支援してあげるよ的な補助制度ではなく「フィールドへの接続」を含めた支援として考えられている点にも驚きました。
民間企業単独では実証実験を行いたくても、場所の確保や関係者調整、管理主体との交渉などが障壁になることはあり得るはずです。特に都市空間を活用した実証では、制度上の整理だけでなく、実際にどこで試すのかという現実的な問題が必ず立ちはだかるのではないかと。
その点で横浜市の特徴として紹介されていたのが、自治体として保有している多様なフィールドへの接続力でした。
例えば、実証の対象となり得るフィールドとしては、商業施設や倉庫・工場や道路や公園といった都市インフラに加え、市内大学や研究開発拠点や中小企業など、企業・研究機関との接続も含まれており、都市全体が実証の舞台として活用できる可能性を持っています。
さらに興味深かったのは、非DID地区でのドローン飛行や、道路予定地を活用した自動運転の実証など、民間単独では実現が難しい領域についても調整支援が行われているという点でした。
そもそも「非DID地区」「道路予定地」なるものがあるのかと初めて知りました。無教養とは恥ずかしいものですね。
このような取り組みは基礎自治体としてのネットワークと調整能力があって初めて成立するものだと思います。一般的な民間企業にはとてもできません。
実証実験というと技術そのものに目が向けがちだったのですが、実際には「どこで試すのか」という観点も非常に重要だと気付きました。横浜市の支援はまさにその部分に踏み込んでおり、都市そのものを実証のフィールドとして活用しようとしている姿勢が印象的でした。
横浜市の具体的な実証支援制度(TechPoc/Y-PAD)
横浜市の具体的な支援制度に関しても話が及びました。
代表的な制度としてTechPoc(テックポック)とY-PAD(横浜ローンチパッド / ワイパッド)が紹介されていました。
まずTechPocは、テック系スタートアップによる実証実験を支援する助成制度。対象は設立5年未満のスタートアップで、最大200万円の助成を受けることができるものだそうです。
余談もいいところですがTechPocをひらがなで「てっくぽっく」と書くと可愛いなと思いました。
一方で Y-PADはスタートアップに限らず、企業の新規事業なども対象となっており、技術の検証から実装へと移行していくフェーズを後押しする制度として設計されています。
技術の検証段階を支える制度と、実装直前の段階を支える制度がそれぞれ用意されていることで、都市として実証のプロセス全体を支えようとしている姿勢が見て取れました。
規制のサンドボックス制度とは何か
今回のセミナーでは横浜市の実証支援制度だけでなく、内閣官房が進めている「規制のサンドボックス制度」についても紹介がありました。
自治体によるフィールド支援と並行して、国としても制度面から実証を後押ししようとしている点が印象的でした。
今回話に挙がった規制のサンドボックス制度とは、新しい技術やサービスについて、既存の制度の枠組みにそのまま当てはめるのではなく、限定された環境の中で実証を行いながら課題を整理し、社会実装に向けた制度調整につなげていく仕組みなようです。
「サンドボックス(砂場)」という言葉が示している通り、安全に試行できる範囲を設定し、その中で挑戦と検証を進めていこうという考え方に基づいています。
新しい取り組みが社会に実装される過程では、技術的な課題だけでなく、制度との関係整理が必要になる場面が必ず生まれます。特にこれまで存在しなかったサービスやビジネスモデルの場合、既存の法制度との整合性が十分に整理されていないこと自体が実装の障壁になることも少なくありません。
そうした場面で、関係省庁と連携しながら法的論点を整理し、適した制度の活用方法を検討できる仕組みとしてこの制度が存在していることが理解できました。
また、今回の説明の中では、日本の成長戦略の中でも規制改革が重要な柱として位置づけられていることにも触れられていました。成長戦略というと新しい産業の創出や技術開発といった側面に注目が集まりがちですが、それらを社会の中で機能させていくためには、制度側の整備も同時に進めていく必要があります。
規制のサンドボックス制度は、その接続部分を担う仕組みの一つなのではないかと感じます。
17の成長戦略分野と「分野横断的課題」という視点
規制のサンドボックス制度の説明とあわせて紹介されていたのが、日本の成長戦略の中で整理されている17の重点分野についてでした。日本としてどの領域に将来の競争力を見出していこうとしているのかを示す重要な指標でもあります。
現在示されている17の戦略分野はこのようなものだそうです。
- AI・半導体
- 造船
- 量子
- 合成生物学・バイオ
- 航空・宇宙
- デジタル・サイバーセキュリティ
- コンテンツ
- フードテック
- 資源・エネルギー安全保障・GX
- 防災・国土強靱化
- 創薬・先端医療
- フュージョンエネルギー
- マテリアル(重要鉱物・部素材)
- 港湾ロジスティクス
- 防衛産業
- 情報通信
- 海洋
いっぱいありますね。これら分野は、それぞれの産業を個別に強化するというだけでなく、日本としての供給力や安全保障、技術基盤そのものをどのように維持・発展させていくのかという視点に基づいて構成されていると思うと、もっとしっかりこれらの産業を知らねばという気持ちになります。
さらに、これらの重点分野と並行して、「分野横断的課題」も整理されていました。成長戦略では、次の8つの課題が分野横断的な基盤として位置づけられているようです。
- 新技術立国・競争力強化
- 人材育成
- スタートアップ
- 金融(資産運用立国)
- 労働市場改革
- 家事等の負担軽減
- 賃上げ環境整備
- サイバーセキュリティ
これらは特定の産業分野の内部に閉じるものではなく、複数の重点分野を横断して支える政策基盤として整理されているものです。個別分野の技術開発を進めるだけではなく、それらを社会の中で機能させていくための共通条件を同時に整備しようとしていることが読み取れます。
今回の説明を聞きながら感じたのは、社会実装という壮大な挑戦は個別の技術分野だけでは成立しないという点でした。どの分野であっても、人材の確保や制度との接続、資金の流れの設計といった要素が共通して必要になります。
個人的に思ったのは、こうした分野横断的課題として制度上整理されている領域の外側にも、実務のレベルでは共通して重要になるテーマがあるのではないかという点でした。
例えば採用や知財戦略、僕らが得意としている情報発信といった活動は、どの産業分野においても不可欠な要素だと思うんです。技術が社会に届くまでの過程を考えると、それらは単なる周辺業務ではなく、むしろ社会実装を成立させるための基盤に近い役割を持っているように思えます。
これらは制度として明示されている分野横断的課題ではありませんが、こうした領域もまた、実証から社会実装へと移行していく過程を支える「もう一つの分野横断的課題」として位置づけて考えることができるのではないかと感じました。
自分自身は技術の実証を担う立場ではありませんが、そうした接続部分に関わる仕事にはまだ多くの余地があるように思いますし、その構造をもう少し理解してみたいという関心が強くなりました。
「実証を支える制度を知る機会」をもっと増やすためにどうすればいいものか
今回のセミナーでは、横浜市が実証実験にどのように向き合っているのか、どのような制度やフィールドが用意されているのか、そしてそれらが国の制度とどのように接続されながら実証環境を形づくっているのかについて、多くのことを学ばせていただきました。
自分自身はテック領域の実証実験を直接担う立場ではありませんが、それでも今回の内容は、社会実装という営みがどのような構造の上に成り立っているのかを考えるうえで、非常に示唆に富むものでした。
実証という言葉は特定の技術分野の話に見えながらも、実際には制度や都市、企業の関係性の中で成立しているものなのだとあらためて感じました。
また同時に、横浜市の取り組みに限らず、日本にはこうした実証を支える制度が数多く用意されており、それを今回改めて実感することができたのも大きかったです。
一方で、それらの制度が必要としている人のもとに十分に届いているのかという点については、まだ大きな余地があるようにも感じています。
公的な制度や取り組みはどうしても情報としての距離が生まれやすく、その存在自体を知らないまま機会を逃してしまうことも少なくないのではないかと思いました。
こうした情報を、必要としている人にもう少し届きやすい形にできないものでしょうか。今回のセミナーを通じて、そのことについてもあらためて考えさせられる機会になりました。
自分にできる関わり方があるのかどうかも含めて、もう少し考えてみたいと思っています。