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VANS「SLIP-ON」について

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1977年に「VANS Style #98」として誕生し、2年後の1979年に現在の形を確立した「SLIP-ON(スリッポン)」。

そんなSLIP-ONは、文化と結びついた深い歴史を持ちます。

これまでサーフ・スケートボードカルチャーやBMXはもちろん、映画、音楽、アートなど、様々な文化と密接に関わることで独自のカルチャーを発展させてきました。

日本国内でも広く一般に知られており、街中に出ると履いている人を見ない日はありません。

ところが、自分の中で定番化すると、たとえその良さを知っていたとしてもどこか「当たり前」になってしまい、本来持つ魅力を忘れてしまうことがあります。

私も日頃から愛用しているのですが、SLIP-ONのようなシンプルで飾り気のないスニーカーの場合、履いているうちにいつの間にか思い入れが薄まっていると感じる瞬間があります。

そこで今回は、VANSの名作「SLIP-ON」の歴史を振り返るとともに、その魅力を再確認しようと思います。

1977年に誕生したVANS「SLIP-ON」の歴史を振り返る

1977年に誕生したVANS「SLIP-ON」の歴史を振り返る

チェッカーボードパターンのSLIP-ON

1977年にStyle #98として誕生したVANSのSLIP-ON。

リリースからほどなくして、スケーターやBMXライダーの間で支持されたことから、南カリフォルニアで人気を獲得します。

そして、SLIP-ONが人気を獲得した背景には、現地特有のライフスタイルも関係していました。

1970年代のアメリカは、サーフィンとライフスタイルが結びついた文化が発展し、サーフカルチャーが確立された時代です。

このライフスタイルに、SLIP-ONの簡単に着脱でき、スケートシューズのソールを使っているという特徴がマッチ。朝のサーフィンを終えた後、濡れた足で靴を履いてスケートボードに乗り換えて出かけるという、当時のサーファーのライフスタイルに理想的なモデルだったのです。

また、現在のVANSの象徴とも言えるチェッカーボードパターンを採用したモデルが誕生したのもこの時期のこと。

実は、チェッカーボードパターンはVANSの企画で誕生したものではありません。

1970年代後半、VANSの創設者「ポール・ヴァン・ドーレン」の息子「スティーブ・ヴァン・ドーレン」が、地元のスケーターたちが黒い油性マーカーでVANSをカスタマイズしているのを目撃。

その中でも特に人気だったチェッカーボードパターンから着想を得たスティーブが、正式にVANSに採用したのが始まりです。

そして、SLIP-ONの歴史を語る上で欠かせないのが、1982年の映画「初体験/リッジモント・ハイ(原題:Fast Times At Ridgemont High)」。

SLIP-ONは、同作で主人公のジェフ・スピコリ役を演じた俳優のショーン・ペンが、チェッカーボードパターンのモデルを着用していたことで、全国的な人気を獲得することとなります。

興味深いのは、映画にSLIP-ONが採用された理由です。

ショーン・ペンは、初体験の撮影開始直前に訪れたVANSサンタモニカ店で、チェッカーボードパターンのSLIP-ONを購入。あまりにも気に入ったため、映画で履きたいと監督のエイミー・ヘッカーリングを説得したと言われています。

後にスティーブ・ヴァン・ドーレンは、L.A. Times紙に「初体験は間違いなく我々を有名にした。映画が公開される前は2000万ドル規模の会社だったが、その後は4000万ドルから4500万ドル規模に成長した。」と語っています。

堅実な作りや、当時のライフスタイルにマッチした機能性がローカルカルチャーからの評価を獲得、それが全国、世界規模へと拡大。

SLIP-ONは品質の高さと時代背景の両方がマッチし、現在までの地位を築いたモデルと言えます。

SLIP-ONの実用的な魅力と履いてわかる良さ

私はSLIP-ONの魅力の大部分は、履き口が広めにとられた足入れが良いスタイルと、シューレースのないシンプルなシルエットにあると考えています。

ある程度ゆとりのあるサイズを選べば、出かける時に手を使わずにサッと履ける便利さは、他のローテクスニーカーではなかなかありません。

さらに、着脱の容易さに反して、ヒールパッドがレザー素材で覆われているため、かかととの引っかかりが良く、歩いていてもヒールが浮きにくいのも特徴です。

着脱が簡単でかかとが浮きにくいスニーカーは、探しても意外と見つかりません。

ただし、新しく購入して履き始めた頃は、そのまま履くと必ずと言っていいほど靴擦れします。そのため私は、購入直後にヒールのパッド部分をもみ込んで柔らかくしてから履いています。

シルエットに関しては、クセのないシンプルを追求したかのようなデザイン。それゆえに特別な面白さはありませんが、服の系統はもちろん、どんなパンツでも大体合わせられるのは強みです。

ボリュームがあったり、主張がないわけでもないので、パンツが細くても太くても違和感なく合わせられます。

加えて、トゥ部分が一枚のキャンバス地やスエードのため、アッパーにパーツを多く使ったスニーカーよりも、耐久性が高くて長持ちします。

履き込むとソールが黄ばんだり、生地が褪色してきたりと、良い感じに経年劣化して味が出るのもおすすめできるポイントです。汚れていてもかっこ良いので、特別気にして履く必要もありません。

履き心地に関しては通常のモデルだと決して良いとは言えませんが、PREMIUMなどの上位ラインのモデルは比較的履き心地の良いインソールが使われています。

いつでも選べるからこそ大切にしたいSLIP-ON

SLIP-ONは、SKATE(旧PRO)やPREMIUM、それに廃版になったAnaheim Factory CollectionやVAULTなどにこだわらなければいつでも購入できます。

そして、いつでも購入できるというのは、気に入ったら履き続けられるという魅力を持つ反面「いつでも買えるからこそ選択肢に入りづらい」という側面も持ちます。

しかし、一度、普段履くスニーカーのリストに入れると、外せないモデルになり得る可能性を持っているのも確かです。

実用的で飽きのこないシンプルかつ、堅実な作りで長く持つモデルは、探そうと思って探しても、簡単に見つかるものではありません。

私はスニーカーが好きでいろいろな種類を試してきましたが、それゆえに「一足は持っていても良いな」と感じるモデルと出会うのは稀です。多くのモデルを試すにつれ、その基準も上がってきました。

VANSのSLIP-ONには、そんな私でも今も変わらずに、これからも一足は持っておきたいと思える魅力があるのは確かです。

履いていることが当たり前になった時や、選ぶモデルの好みが変わったタイミングには、今一度そんな気持ちを再確認したいなと思いました。

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Takahiro Ichikawa