私はマクドナルドが好きでよく食べます。
一時期は毎日食べ続ける生活を半年以上続けていたこともあります。
先日、マクドナルドの歴史を描いた2017年公開の映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(原題:The Founder)」を見ました。
創業者を意味する原題の「Founder」の通り、マクドナルドが現在の形態になるまでの歴史を、創業者「レイモンド・アルバート・クロック(Raymond Albert Kroc)」の半生とともに描いた映画です。
あらすじ
1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロックに6台の注文が入る。注文をしたのは、ディック・マクドナルドとマック・マクドナルド兄弟がカリフォルニア南部で営業する「マクドナルド」というハンバーガーショップだった。気になったレイが店舗を訪ねると、徹底的に効率化されたシステムで食事を提供する画期的なサービスに衝撃を受け、兄弟にフランチャイズ化の話を持ちかける。順調に店舗の展開が進むも、利益を追求するレイとマクドナルド兄弟の関係は次第に悪化してゆく。
映画を鑑賞する前は、なんら不自然のないタイトルで気にもしなかったのですが、鑑賞後には強烈な皮肉が込められていたことに気がつき唖然としました。
レイ・クロックが見つけた徹底的に効率化されたマクドナルドのシステム
映画は1954年、プリンス・キャッスル社のセールスマンとして働くレイ・クロックが、シェイクミキサーの売り込みをするシーンから始まります。
各地のドライブインを回ってシェイクミキサーの営業をしているものの、商品のミキサーはいまひとつ売れていない様子です。
そんな中、カリフォルニアの店舗から1つの店舗で6台ものシェイクミキサーの注文が入ります。
間違いではないかと気になったレイが電話をかけると、注文をしたのはマクドナルドという店で、電話越しにも店内が盛況している様子がわかるほどです。
電話中、ディック・マクドナルドはなんと、注文をさらに8台にまで増やすと言い出しました。
繁盛しているであろう店内の様子や、そのサービス内容が気になったレイは、ミズーリ州からカリフォルニアのマクドナルドまで車を走らせます。
電話で聞いた住所に到着すると、列をなす多くの人で賑わうハンバーガーショップ、マクドナルドの店舗が。これまでレイが営業で回っていたドライブインと比較すると、その差は歴然です。
順番が回ってきたレイが商品を注文すると、時間を置かずすぐさま提供される商品に驚きを隠せません。
提供時間が短いことに不安を抱いたレイがカトラリーは入っているのかと聞くと、スタッフはスプーンやフォークは必要なく、包み紙を持って好きな場所でハンバーガーを食べるように提案します。
当時のアメリカは、駐車スペースに停められた車にスタッフが注文を聞きに向かい、食事を届けて車内で消費するドライブインのスタイルが主流とされていた時代。それゆえに、提供に時間がかかるのは当たり前で、商品の間違えや注文したものが届かないなどのトラブルもありました。
食べるのにカトラリーも必要なく、場所も選ばずどこでも食べられるシステムは、当時としては革新的だったのです。
そんな効率化されたシステムや、家族連れで賑わう店舗周辺に目を奪われていると、店の周りを掃除しているスタッフらしき人物がレイの目に入ります。
シェイクミキサーの件で電話に出たディックの兄のマック・マクドナルドです。
レイは自分がシェイクミキサーのセールスマンだと伝えると、マックは店内の見学を提案。マクドナルドの店内には、徹底的に効率化された工程でハンバーガーを作る光景が広がっていました。
そのシステムに強く興味を惹かれたレイは、ディックとマックを食事に誘い、2人からマクドナルドが誕生した物語を聞きます。
ディック、マック兄弟が語るマクドナルドの成り立ち
若い頃、ハリウッドに興味があったマックはコロンビアピクチャーズの運転手の仕事を開始。資金をを貯めて映画館を買収するも、1929年の大恐慌で経営は赤字に傾いてしまいます。
そこで、兄弟は当時、羽振りの良かったホットドッグ店に倣って、ホットドッグ店をオープン。人口の少ない町で始業したため、人の多い地域に移る計画を立てようとするも、店舗を移転するには十分な資金がありません。
そこで、弟のディックが、店をそのままトラックに乗せて移動することを提案します。
ところが、街に向かう途中には橋があるため、店舗を荷台に積んだ高さのある状態では、橋の下を通り抜けることができません。そんな状況にディックは、店を半分に切ることで見事に対応しました。
店舗を移動した後、1940年にドライブインのブームが訪れます。その流れに乗り、2ヶ月後にはBBQ店をオープンし、最初は人気を集めるも徐々に売り上げは横ばいに。
ドライブインには、不良や暴走族の溜まり場にされやすいという側面があったのです。他にも、前述した注文後の待ち時間の長さや提供商品のミス、人件費を含む経費の問題もありました。
ある時マクドナルド兄弟は、店の主力商品が、ハンバーガー、ポテト、ドリンクの3つに限られていることに気がつきます。なんと、この3つだけで店舗の注文の87%を占めたようです。
そこで、2人は他のメニューの廃止を決断し、3つの主力商品に注力します。他にも皿、包み紙、ジュークボックスはもちろん、ウェイトレスに至るまで、あらゆる無駄を徹底的に排除。
さらには、客の待ち時間までもなくし、商品を注文から30秒で提供できる画期的なシステムを作り上げます。
ところがある時、繁盛していた店舗を急遽休業。
より効率的な店舗を作り上げるべく、さらに追求します。テニスコートにチョークで店内図を書き、実際にスタッフを連れてきて図面の上で効率的な動作を繰り返しチェック。実際の動線を確認しつつ、6時間をかけて最適な店内配置を作り上げ、それを基に厨房を特注します。
このようにして、マクドナルドが誇る「スピーディー・サービス・システム」が誕生しました。
ところが、注文を聞き商品を運ぶウェイトレスを廃止したことで、車内で注文して商品が届くまで待つドライブインのシステムに慣れていた当時の客は混乱。
どのようにしてセルフオーダーのシステムを客に伝えるか、という新たな課題が出てきます。
そこでマクドナルド兄弟は、開店イベントを企画。イベント自体は失敗に終わったものの、口コミでその評判が広まり、翌日には客が押し寄せる人気店になります。
突き詰められた効率化が生み出すスピード感と異常なまでのこだわりによって、現在のマクドナルドの原型が出来上がったのです。
急速に拡大するマクドナルド。レイ・クロックとマクドナルド兄弟の間に生まれる確執
マクドナルド兄弟から話を聞いた後に、レイは店舗の前で待ち構え、2人に店舗のフランチャイズ化を提案。
するとディックから、マクドナルドはすでにフランチャイズ展開しているという事実とともに、品質維持のためにもこれ以上は広められないと言う兄弟の考えを知らされます。
レイはそれを聞き、一度は自宅に帰るものの、諦めきれず再びカリフォルニアへ。マクドナルドのシンボルのゴールデンアーチを、教会の十字架や裁判所の国旗ように、アメリカのシンボルにしようと熱心に提案します。
マックとディックは、再び提案されたフランチャイズ化と品質管理との間で悩むも、レイの熱意に心を動かされ、提案に応じることに。
この野心的とも取れるレイの熱意と、ブランドとしての品質を求めるマクドナルド兄弟の方向性の違いが、のちに両者の間に確執を生むきっかけとなります。
マクドナルドの拡大を進めるレイは、銀行に融資を求めるものの断られ、家を抵当に入れてなんとか融資を勝ち取ります。
融資の追い風もあり、レイはマクドナルドを急速に拡大するも、ディックが懸念していた品質問題が表面化。いくつかの店舗で管理者による運営問題が見られるようになります。
レイはこの問題に対し、信頼できる人材を自分の目で見極め、責任者として採用することで改善しました。
着実に増える店舗や売り上げとは裏腹に、低価格な商品を取り扱う性質上、純利が少ないことや、兄弟との契約により取り決められた自身の取り分が少ないことが原因で、レイは財政難に陥ります。
その財政難の一端となっていたのが、主力商品のシェイクの原料を保存する冷凍庫の存在。そんな時、ある店舗のオーナーの妻から提案されたのが粉末シェイクです。
ミルクと氷を使う従来のシェイクとは異なり、水に粉末を溶かすだけで同レベルの味が再現できる粉末シェイクは、原料の保管問題に頭を悩ませるレイがまさに求めていた解決策でした。
そこでレイは、経費がかさむ原因となるシェイクを粉末にしようと兄弟に提案するも、ディックにミルクを使わないシェイクは邪道だ、本物ではないと断られてしまいます。
そんな状況のレイが追加の融資を銀行に提案するも断られた帰り道に出会った男、ハリーに店舗の土地を店舗にリースにすることで、兄弟との契約による報酬とは別に収入を得るシステムを提案されます。
財政難により、その提案を断る余地のなかったレイは、後に「マクドナルド・コーポレーション」となる土地のリースを行う不動産会社を設立。資金問題を解決したレイは、マクドナルドの全国展開に成功するも、この出来事が兄弟と争う火種となりました。
勢いに乗ったレイは、かつてディックに断られた粉末シェイクの採用も強行。兄弟の許可なく、フランチャイズ展開する店舗に配り始めます。
資金力をつけたレイに兄弟が抵抗する術はありません。この時点で、レイがマクドナルドを乗っ取ったとも言える状況でした。
そんな中、マックが倒れてしまいます。するとレイが病院に現れ、持ってきた花束の間には白紙の小切手が添えられていました。
もはやなす術がないマクドナルド兄弟は、270万ドルと会社の利益1%、そして2人が立ち上げた本店の権利を要求します。
最終的に会社の利益の1%は紳士協定となるも、結局はそれを理由に守られなかったようです。
アメリカの資本主義を象徴するマクドナルドが見せた、消費社会の負の側面
マクドナルドは、アメリカの資本主義を象徴する例としてしばしば取り上げられています。
そしてその根底にあるのは、マクドナルド兄弟が生み出した安い商品を速やかに提供するシステムです。
アメリカ国内はもちろん世界中の食事文化、さらには消費行動という大枠で見ても、その大きな部分に影響を与えている、もしくは発展する一つのきっかけとなっているかもしれません。
私は、マクドナルド兄弟が始めたこのサービスは、ビジネスとしてのメリットはもちろんですが、品質にこだわっていた点などを見るに「お客様のため」という理由も大きかったのではないかと思います。
ところが「速く安く」は、消費社会において絶大な影響力を持ちます。両者のバランスが崩れてしまうと、ビジネス的には正しくてもどこかに違和感を感じるようなサービスを生み出してしまうと思うのです。
マクドナルドにおいては、そのバランスを崩してしまったのがレイ・クロックの野心だったのではないでしょうか。
本映画では、マクドナルド兄弟がマクドナルドというサービスを生み出した本当の創業者として描かれています。一方、マクドナルドとしては、レイ・クロックを創業者としており、世間でもそれが一般的です。
原題の「The Founder」は、一見するとマクドナルド兄弟のことを表しています。
ところが、本映画の主人公がまるで資金力でマクドナルドを乗っ取ったかのように描かれていることを踏まえると、タイトル自体がレイ・クロックのやり方や、アメリカの資本主義に対する強烈な皮肉になっているように思えます。
映画ということもあり、本作には脚色や伏せられている内容があるのは事実です。少し調べてみると、本作がマクドナルド兄弟サイドに寄せて作られていることがわかります。
レイ・クロックとマクドナルド兄弟のどちらの主張にも正しさがあり、私自身の正解はまだ見つかっていません。
映画に関係なく、これからもマックを食べていきたいです。