今回は、お客様から薦めていただいた一冊、『子育てのきほん』(佐々木正美 著)について書いてみようと思います。
可愛らしい表紙、堅苦しさのない読みやすい文体。正直なところ、手に取る前は「やさしい育児の本かな」くらいの印象でした。
ところが、読み進めるうちに、こんなにも人の核心を突いてくるのか…と驚いたんですよね。
先日まとめた「今年読んでよかった本TOP5」にも入れさせていただいたのですが、自分にとって衝撃の大きい一冊でした。
私自身、二児の父ではありますが、ただ、親として何かを体系的に学んできたかと言われると正直かなり怪しいものです。子どもが生まれ、流れのままに親になり、日々をやり過ごしてきただけだったなと、この本を読みながら痛感しました。
そしてビジネスにも大いに参考になる観点がいっぱいでした。
可愛らしい装丁とは裏腹に自分の未熟さを突きつけてくる、そんな一冊。
本当に、本当に勉強になりました。
まず、ビジネスにも効く観点が非常に多い
読み始めてまず感じたのは「あれ、これは本当に子育ての本なんですよね?」という違和感でした。
著者の佐々木正美氏は児童精神科医であり、本書も当然その文脈で書かれています。それにも関わらず、内容は驚くほどビジネスや組織、マネジメントの話としても成立していました(僕がビジネスの世界にどっぷり浸かっているからそう見えたのかもしれません)。
親としてだけでなく、一人のビジネスマンとして、経営者として、深く考えさせられる観点があまりにも多かったのです。
本書の中には、こんな感じの考え方がたくさん登場します。
- 願いをたくさん聞いてもらった子は社会のルールも自然に学べる
- 可愛がるからいい子になる。いい子だから可愛がるんじゃない
- 人間は人間関係の中にしか生きる価値を見出せない
- 生徒から学べる教師こそが、本当の意味で生徒に教える力を持った教師。そして患者から与えられることの陰茎に感謝できる治療者だけが、患者から感謝される治療ができるのだと思う
- 自分は大切にしてもらったという経験をさせてあげよう
- 大切なのは目と手をかけてあげること
- 自分を大切に生きることと、自分だけを大切に生きることは違う
どうですか?どれも子育ての話でありながら、そのまま社員やお客様との関係にも置き換え可能ですよね。
下手なビジネス書を何冊読むよりも、よほど本質的なことが書かれていると感じますし、この本を何回も読んだ方がいいんじゃないかと本当に思います。
正直、自分のこれまでの振る舞いを振り返らずにはいられませんでした。
お客様に対して、社員に対して、こうした姿勢で向き合えていただろうかという問いに対し、正直、自信を持って「はい」とは言えません。
そしてそれは、親としての自分にもそのまま当てはまります。
この本を読み終えた頃には、スキルやノウハウ以前に、自分の在り方そのものを見直す必要があるなと強く感じました。
医者になるには医学の勉強を、料理人になるには料理人の勉強をするのに、親になるのに親の勉強をしていない
この本を読んで、最初に浮かんだのは「自分は親としての勉強をしたことがあったか…?」とても素朴な疑問でした。
医者になるなら医学を学びます。料理人になるなら料理を学びますよね。
それなのに、人生の中でもっとも大きな役割のひとつであるはずの「親」については、ほとんど何も学ばないまま、その立場になってしまう。なんだか不思議な話じゃないですか?
経営者も同じだと思っています。
会社は登記すれば誰でも社長になれます。経営の経験がなくても社長になれるんです。それがすごくもどかしくて、経営をきちんと学んでこなかったからこそ、僕は今MBAに通っています。
それと同じで、子育ても「感覚」や「勢い」だけでやってきてしまったのだと思います。
もちろん、何も学ばなくても素晴らしい親になれる人はたくさんいるはずです。が、少なくとも私はそうではありませんでした。
どうしても自分の価値観や都合を軸にして、子どもと向き合ってしまっていましたし、仕事が立て込めば子どもとの会話が減り、関わりも薄くなってしまいます。そんな場面はいくらでも思い当たります(情けないことです)。
この本を読んでから、少しだけ行動が変わりました。
子どもの呼びかけにできるだけ仕事の手を止めて耳を傾けてみたり。特別なことをしなくても近くにいる時間を増やしてみたり。理由もなくただ撫でてみたり。
ポジティブに接する機会を、意識的につくるようになりました。
まだまだ勉強途中ですし胸を張れるような親ではありません。
それでも、ほんの少しだけ「親っぽいこと」ができるようになった気がしています。
本当に、本当にほんの少しだけですけど。
親が望む子供に育てるのではない。子供が望む親になれ
この本を読んで最も強く突き刺さったのは「自分が自分の望む姿を子どもに求めてしまっていた」ということでした。
親として子どもに期待を持つこと、それ自体がすべて悪いわけではないと思うんです。
ただ、その期待が強くなりすぎたとき、それは子どもの人生にとって必ずしも良いものとは限りません。
子どもには子どもの個性があり、長所があります。それを伸ばすためには、親である自分の価値観や理想がかえって枷になってしまうこともあるんですよね。
この視点はすごく理解できますし、一般的によく言われる話ではあるものの、正直あまり実感が持てていませんでした。
読みながら、自然と仕事のことが頭に浮かんできまして、「これ、社員に対してもまったく同じではないか?」と思ったんですね。
「社長が望む社員に育てるのではない。社員が望む社長になれ」
そう言い換えてみるだけで、普段の自分の振る舞いを直視せざるを得なくなります。
どう振る舞っているか、どんな言葉を使っているか、どんな姿勢で人と接しているか。意識の向きが、はっきりと変わりました。まだまだ社員が望む社長にはものすごく程遠いですが。
さらに言えば「会社が望むお客様に育てるのではない。お客様が望む会社になれ」、こんな言い換えもできると思います。
結局のところ、相手を尊重し、優先するということなんだろうなと思います。
相手が何を望んでいるのかを考え、それに応えられる自分であろうとすること。それを怠っていては、良い親にも、良い社長にも、いい会社にもなれません。
この本は、子育ての本でありながら、自分の生き方や、人との向き合い方そのものを問い直すきっかけをくれました。
親としても、経営者としても、もう一段階ちゃんと向き合っていこうと、そう思わせてくれた一冊でした。