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プロジェクトにおける「目的」の明確化を疎かにしないために

私たちがブランディングを行う場合「プロジェクトの目的を明確にすること」に最も注力すると言っても過言ではありません。

要求事項を掘り下げずにプロジェクトを開始してしまうことは避けなくてはなりません。要望の輪郭が不確かな状態で計画が始動する場合、目指す成果に対する明瞭性を欠くことになるためです。

結果として多岐にわたる状況下における評価基準が揺らぎ、計画の遂行に負の影響を及ぼすことになるのです。

共通認識の構築や適切な意思決定が困難を極める状況では、修正の反復が常態化し、それに伴う計画遅延も避けがたい結果となります。

プロジェクトの目的、その解像度をより向上させるために私たちが考えていることを取りまとめてみました。

要求事項の明確化を疎かにした場合の混乱

要求事項を掘り下げずにプロジェクトを開始してしまうことは避けなくてはなりません。要望の輪郭が不確かな状態で計画が始動する場合、目指す成果の明瞭性を欠くことになるためです。

これが原因で、多岐にわたる状況下における評価基準が揺らぎ、計画の遂行に負の影響を及ぼすことになるのです。

共通認識の構築や適切な意思決定が困難を極める状況では、修正の反復が常態化し、それに伴う計画遅延も避けがたい結果となります。

さらに、デザインに限定するならば、要求事項が明確でない場合には、採択すべきデザイン案の選定基準も不確定となりがちです。最終的には個々人の主観的好みに基づく選択が行われる事態も稀ではないのが現実です。

目標が設定されていない状況でのプロジェクトやデザインの開始は、ルールの認識なきままゲームに臨むことに他なりません。得点の方法が不明な者は、勝利を望むことはおろか、他者のプレーに対する評価を遂行する能力すら有していないのです。

要件や目的といった評価基準が設けられない限り、制作者はプロジェクトの推進方法を見出すことが困難となり、同時にクライアントも成果物に対する評価の視点を維持することは叶いません。

優れた成果を導出するための基盤は、双方の深い相互理解、すなわち対話と傾聴にあります。明瞭な要望とそれに適合する明確な解決策の一致が、成功を収めるプロジェクトにとっての基本要件なためです。

プロジェクトの目的を高解像度で俯瞰するために

目標遂行のための手段の背後に潜む根本的な要望を明らかにするためには、第一に現況に対する精密な認識が求められます。

曖昧な目的を土台としたデザインの創出は困難を極めるだけでなく、かつ、その過程でステークホルダーの満足を得ながら終結点に至ることは稀有です。

プロジェクトのスタートに先立ち、目標を定義するための詳細な調査や、対話を通じた情報収集の実行が不可欠です。

周辺要素の調査及び対話を通じたヒアリングの目的は、基礎となる前提事項、プロジェクトの形成過程、経緯、ステークホルダーの志向性、関与者の認識など、プロジェクトのゴールを洞察するために必要な多様な情報を獲得することにあります。

プロジェクトの目標が明瞭化されると、デザインが担うべき役割も明瞭化されるからです。

調査及びヒアリングの工程においては、「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「何のために」「どのように行うか」という根本的な6つの疑問(5W1H)を明らかにすることが肝要です。

例を挙げるならば、「Webサイトをリニューアルしたい」というオーダーに対して行ったヒアリングで、「ブランドイメージを刷新したい」という回答を鵜呑みにし、プロジェクトの指針とするのは早計です。

それは、「ブランドイメージの刷新」という手段に過ぎず、最終的な目的ではないからです。リニューアルを検討するに至った背景や関連要素を徹底的に検証し、本来のニーズを探る必要があります。

指針が固まることで、デザインチームのパフォーマンスも向上し、関係者の意思決定の揺らぎも最小化されるでしょう。

「曖昧」な前提事項を放置しない

既に審議を重ねたプロジェクトに途中から加わる際、不明瞭な前提条件が存在するにも関わらず、まるで全員の合意が成立しているかの如くプロジェクトが進行する事態も見受けられます。

中途半端な段階で合流した参加者は、既にコンセンサスが形成されているという印象を受けることがあり、これが原因で前提条件の再確認が疎かにされてしまうのです。

不透明な前提条件のもとで「後に詳細が明確になるだろう」「この指針で進めれば大きな誤差は生じないだろう」といった軽率な仮定を設けてプロジェクトを進行することは、非常に危険です。このような態度は、後に見解の不一致による作業の手戻りが発生するリスクを想定できず、実質的に時限爆弾を抱えてプロジェクトを開始することに他なりません。

日々のルーチンワークとは異なり、様々な変数を含むプロジェクトでは、進行の途中で見解、認識の不一致が露わになりがちです。

これはプロジェクトの進行に著しい障害を与えかねないため、曖昧な前提条件は早期に解消しておく必要があります。

プロジェクトの目的をどのように明確にするか

プロジェクトの目的は、往々にしてテキストによる明文化がなされておらず、結果としてその解釈には個々の差異が生じ得ます。

プロジェクトには多様なステークホルダーが関与することが予見されるため、前提事項を都度共有するという手法は効率を著しく損なう恐れがあります。したがって、プロジェクトの意図を文として整理し、適宜参照できるようにしておく必要性があります。

これにより、関係者間の理解の均一性を保つと同時に、プロジェクトの進行における明瞭さを確保することができます。

以下の7項目は、プロジェクトが円滑に推進されるために明確化しておきたい項目です。

  1. プロジェクトの目的
  2. 制約となる条件とその範囲
  3. 参画を要するメンバーや企業間の連携構築
  4. 意思決定に当たる者及びその特性把握
  5. ステークホルダー及び利害関係の構造
  6. 予算配分の適正性
  7. スケジュール設計の現実性

特にプロジェクトの目的や制約となる条件とその範囲など、「後に変更が困難な条件」こそ事前にfixしておくことが肝要です。
特にプロジェクトの根幹をなす「目的」の不確かさは、諸リスクを内包し、順調な進行を妨げる要因となりえます。

プロジェクトの核心となる「目的」の設定にあたっては、次の問いが有効です。

  • 本プロジェクトにおいては何を遂行するのか?
  • なぜこのプロジェクトを起案し実行に移すのか?
  • このプロジェクトの成功及び失敗を何によって測るのか?

これら三点を基軸に目的の明確化を図ります。

単純明快に見える問いかけに見えるかもしれません。

しかし、発注者が自らの言葉で明言できていない状況や、ステークホルダーの多さに比例して意見が拡散する場合は、より詳細なヒアリングや集約作業に多大な時間を要することも考えられます。

また、プロジェクトの成否を判定する基準にあたっては、具体的な数値目標が重要な役割を果たしますが、数値目標は企業側で定義されるものであるため、プロジェクト側で設定できないケースも存在します。

従って、数値目標の達成だけに注力するのではなく、目指すべき方向性を明示するためにこれを用います。

時にはプロジェクトを解体すること、断ることの重要性

Webサイト制作のプロジェクトに際してのヒアリングの過程において、クライアントから提示された目標が「売上増加」だった場合を仮定しましょう。

この目標は、Webサイトの直接的な成果物として捉えるには相応しくない場合があります。

Webサイトの構築自体が売上の増加に直接的に作用するわけではないためです。

売上を直接伸ばす戦略は様々に存在します。

例を挙げれば、

  • 営業戦略の全面的な見直し
  • 営業人員の数の増加及びその教育
  • 作業マニュアルの策定
  • 広告手段の再考
  • 提携企業の選定等

など、これ以外にも多くの手法が存在します。この場合は売上向上を得意とする専門のパートナーと協働することが、実効性の面で最も望ましいと考えられます。

オーダーに対して条件反射的に自社のプロダクトを押売りする姿勢は真のソリューションを提供しているとは言い難いものです。相互の利益となる結果を出すためにも、無理にプロジェクトを推し進めることは慎まなければなりません。

また、仮にWebサイト制作が目標達成に対して適切なソリューションであるとしても、期日や予算等の制約が適切でなければ、期待される品質を維持することが困難である可能性が高くなります。

双方が納得できる解決策を見出せることが理想的ではありますが、それが難しい場合は、プロジェクトの根本的な再検討も視野に入れる必要があります。

互いに負うリスクを不用意に増大させるよりも、プロジェクトの中断や解体を含めた慎重な判断が重要な場合も存在します。

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Kentaro Matsuoka