AI技術の進化により、Web業界は新たな転換期を迎えました。
ChatGPTやGeminiといった生成AIの普及により、ユーザーの検索行動はこれまで以上に大きな変化を見せています。たとえばGoogle検索では、従来の検索結果に加え、生成AIによる要約「AI Overview」が表示されるようになり、情報収集のスタイルそのものが変わりつつあります。
こうした動きに合わせて、LLMO(Large Language Model Optimization:大規模言語モデル最適化)といった新たな概念も注目を集めています。Web業界に関わる企業にとって、AIを前提とした対応はもはや避けられない課題と言えるでしょう。
その中で、Google広告にも大きな変革が訪れています。それが2025年5月に開催されたGoogle Marketing Liveで発表された「Power Pack」です。
GoogleのAI技術を活用することで、ユーザーの認知、比較・検討、購買までの一連の行動を横断的に捉え、最適化できる仕組みが実現しようとしています。
では、このPower Packの登場によって広告運用はどのように変わるのか見ていきましょう。
Power Packの概要
Power Packとは、Google広告における3種類のキャンペーンを組み合わせる新しい戦略です。この戦略は、共通のコンバージョン(CV)目標に基づいてAIが横断的に学習・最適化を行います。
対象となるキャンペーンは以下の3つです。
- Demand Gen(デマンドジェネレーション):YouTubeやDiscoverを活用して需要喚起
- AI Max for Search Campaigns:検索キャンペーンをAIで拡張し、潜在的な需要まで獲得
- Performance Max(P-MAX):検索・YouTube・ディスプレイなど、全チャネルを横断して広告配信
AI Max for Search Campaignsは、従来の検索広告をGoogleのAI技術によって進化させた新しいキャンペーンです。
Power Packでは、複数のキャンペーンデータをひとつに統合し、AIが横断的に最適化を実行します。
その結果、検索広告で得られたインサイトがYouTube広告やDiscover広告の配信改善に活かされるなど、チャネルを超えたデータシナジーを最大限に発揮できる点が大きな特徴です。
Power Packを構成する3つの要素
デマンドジェネレーション(Demand Gen)
Demand Genは、YouTube・Discover・Gmail・Googleマップといった視覚的に広告を配信するキャンペーンです。動画やカルーセル広告などを活用し、ユーザーの感情や購買意欲に直接働きかけます。
このキャンペーンは、すでに商品やサービスに興味を持ち始めた層に効果的にリーチし、検討から購買に進める役割を果たします。
ブランド認知だけでなく、購買意欲を高める段階で特に大きな成果を発揮するのが特徴です。
AI Max for Search Campaigns
AI Maxは、従来の検索広告をさらに進化させた新しいキャンペーンです。従来のキーワード依存型とは異なり、ユーザーの検索意図をAIが理解し、より関連性の高い広告を表示できる仕組みが導入されています。
主な特徴は次の2点です。
- ブロードマッチの高度化:AIが文脈を理解し、関連性の高い検索クエリを自動でマッチング
- キーワードレスターゲティング:広告主が設定した目標CVやLPをもとに、キーワードに依存せず広告配信を最適化
従来の検索広告は、主に顕在層を対象とした手法でした。AI Maxの導入により、これまで拾いきれなかった潜在的な需要まで獲得することが可能になります。
その結果、検索広告の役割は「顕在ニーズへの対応」にとどまらず、潜在需要の発掘やファネル上流での顧客接点の創出へと進化しています。
Performance Max(P-MAX)
P-MAXは、Googleが提供する全チャネル横断型のキャンペーンです。2021年11月に実装され、検索、YouTube、Discover、Googleマップ、Gmailなど、Googleが保有する多様な媒体に自動で広告を配信できます。
最大の特徴は、AIが広告アセット(画像・動画・テキスト)を組み合わせ、配信先ごとに最適化してくれる点です。これにより、広告主は媒体ごとの複雑な調整を行うことなく、最も効果的な形でユーザーにリーチできます。
これまでに90以上の機能改良が行われ、Googleの発表によればCV数やCV価値が平均10%以上向上しています。P-MAXは特に新規顧客獲得や幅広いリーチに強く、広告戦略全体の基盤として重要な役割を果たします。
さらに従来は限定的だった配信結果の分析も、現在はチャネル別にインプレッション・クリック・CVなどを確認できるレポート機能が提供され始めています。
この詳細レポート機能は、すでに海外では展開が進んでおり、日本でもまもなく利用可能になると見込まれています。
Power Packを導入するメリット・デメリット
Power Packはまだ日本では実装されていないため、実際の操作感は未知数です。しかし、導入によって得られるメリットは大きいと考えられます。
まず注目すべきは、認知→比較・検討→購買という購買プロセス全体をカバーできる点です。ユーザーが情報収集を始めた段階から購買直前まで切れ目なくアプローチできるため、離脱を防ぎ、最終的なコンバージョン率向上につながります。
さらに、AIが購買意欲の高まりそうな層を予測し、適切なチャネルで接触することで、新規顧客獲得効率の改善も期待できます。
加えて、Power PackではAIが配信先やクリエイティブの組み合わせを自動で最適化します。これにより運用者は細かな設定作業は不要となり、戦略設計やクリエイティブ改善といった付加価値の高い業務に集中できるようになります。
一方で、AIに依存しすぎることのリスクも見逃せません。
AIが自動で最適化してくれるからといって、設定して放置では成果は上がらないでしょう。AIが多くの調整を担うため、これまでのような細かな入札や配信調整の比重は小さくなります。
しかしそれは「広告担当者が不要になる」という意味ではありません。むしろ「AIの提案を検証し、ビジネス目標に沿うかどうか判断する」役割がより重要になるはずです。
AI時代に求められる広告運用者の新たな役割
Power Packの登場は、広告運用における転換点となるでしょう。
AIによって認知から購買までの一連の流れを横断的に最適化できることは、運用者にとって大きな恩恵となるはずです。
しかし、その使い方を誤れば意味のない仕組みになりかねません。AIが提案する施策を鵜呑みにするのではなく、プロジェクトのゴールに合致しているかを検証・調整する力が必要不可欠です。
またSEOがLLMOへとシフトしているように、広告の世界もAIに対する最適化が求められていくはずです。
AIの進化に流されるのではなく、AIを正しく活用し導いていくことが、これからの時代における運用者の新たな役割となるでしょう。