弊社オフィスのある桜木町の周辺を、ふと散歩してみました。
見慣れたはずの景色が、歩く速さを変えるだけで少し違って見えるのがなんだか不思議です。
今回は、そんな桜木町の街をのんびり歩いた僕の足取りを、モノクロ写真とともにお伝えします。
高速道路
どこかへ向かう車たち
高速道路の入り口付近から少し歩き出し、パシフィコ横浜のあたりまで、ふらふらと足をのばしてみました。
車の音が背中の方で小さくなりはじめると、不思議と耳が静かさに慣れていきます。
風の音、誰かの足音、信号が変わるときの音。そんなささやかな音が、少しずつ輪郭を持って聞こえてきます。
海の気配がだんだんと近づいてきて、潮の香りがふっと鼻をくすぐる頃には、頭の中のざわつきもゆっくりとほどけていくようです。
歩いているだけなのに、なぜか深呼吸をしたような気持ちになります。街から少し離れるだけで、自分の内側の音が静かに戻ってくるような、そんな感覚があります。
車
人気のない街を自転車が横切っていきます
ランドマークタワー
柔らかい日差し
一人歩く方
さらに少し足を伸ばして、今度は海岸通りの方へ。
ビルの隙間から光が傾きはじめ、潮の香りがかすかに漂ってきます。
海の近くを歩いていると、不思議と呼吸が深くなり、胸の奥が静かに整っていくような気がします。
このあたりは、会社を立ち上げる前ほとんど毎日のように歩いていた場所でした。
ひとりで考えごとをしたり、あてもなくただ歩いたり。
何も持っていなかったあの頃の僕にとって、この道は心のよりどころのような場所だったのかもしれません。
あれから年月が経ち、少しずつ仕事のかたちができてきた今、ふと立ち止まって思います。
いまの自分が、ほんの少しだけでも成長した姿を、この街に見せられていたらいいなと。
BLUEBLUE
鳩がいました
みなとみらいの景色
船
きっと僕の知らないところへ向かう方
日が落ちてきたので、ランドマークタワーのあたりまで戻ってきました。
観光地と歓楽街に挟まれたこの街の、ほんの小さな一角。昼間の喧騒がゆっくりと遠のき、街が少しずつ夜の気配に包まれていきます。
夕暮れから夜へと移り変わるこの時間帯、この街には「どこにも行けない」ような感覚がふと立ちのぼる瞬間があるような気がします。
行き場をなくした想いが漂っているような、あるいは誰にも見つけられないまま沈んでいく光の粒のような。そんな、かすかな「余白」がこの街にはずっと残っている気がするのです。
その少し退廃的な空気が、僕は昔からなぜかとても好きです。
欠けていること、明るすぎないこと、どこにも属しきれないこと。そういうものを受け入れてくれる優しさと悲しさが、この街の夕景にはあるような気がしています。
行き来する人たち。帰るのか、どこかへ向かうのか
行き来する車たち。向かうのか、どこかへ帰るのか
少し湿った夕暮れの空気の中を進む車
夜を迎えて
桜木町からみなとみらいの辺りを、ゆっくりと歩きました。
観覧車が回り、高層ビルのガラスが夕陽をきらりと反射する街。一見すると華やかで、どこまでも洗練された風景に包まれています。
けれど、その整いすぎた景色のなかに身を置いていると、不思議と胸の奥に、しんとした寂しさが湧いてくることがあります。
人通りの少ない遊歩道、ふと見上げた静かな空、使われなくなった道。
そうした場所に漂っているのは、誰かがいた気配ではなく、誰のものにもなっていない時間。空白のような、余白のような、どこにも属さない感覚です。
なんというか、喧騒のなかにあるからこそ感じられる「孤独」をこの街はそっと肯定してくれるような気がします。
雑踏で孤独を覚えること自体は、決して悲しいことではありません。
それはむしろ、ごく自然で、あたりまえの感覚として受け取ることができる気がします。
孤独とは、何かが欠けているというよりも、自分の芯に立ち返るための静けさのようなものなのかもしれません。
その孤独のあいだで、ゆらゆらと揺れている自分を感じます。
誰かとつながりたいような、でもひとりでいたいような、そんな脆い境界のなかで、静かに揺れている自分。
自分と街とのあいだで揺れ動くもの。
人と人とのあいだで揺れ動くもの。
景色と記憶とのあいだで揺れ動くもの。
はっきりとは形にならないその「間」に、いまの自分が確かに生きているような気がします。
そしてこの街はそんな曖昧さを否定せず、ただ静かに受け止めてくれるような気がするのです。
その空白にそっと触れるとき、自分という存在の輪郭がかすかに浮かび上がってくるような感覚があります。
だからなのか、僕はこの街のきらびやかさの陰に潜む寂しさが好きです。
それは何かを失うための寂しさではなく、そっと自分に戻っていくための静けさであり、ゆらぎなのだと思うのです。
この街の夕暮れは、そんな優しい孤独の「間」に揺蕩う僕たちを、何も言わずに受け入れてくれる場所なのかもしれません。
そんなことを思いながら、ゆらゆらと街を歩きました。