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ただ壁を撮る

何かの一部でありながら、私たちの視界のすみに追いやられている存在、「壁」。

ふとした瞬間に、その無骨さに心を奪われることがあります。

傷んだコンクリートや、蔦に覆われた表面、ひび割れや染みついた影。そこには、誰かの記憶や時間が、静かに宿っているように感じられます。

そんな壁たちをただとりあえず撮影してみた、そんな小さな観察記録です。

規則と崩れが、同時にそこにあるような感じ。

自然がじっと、時間をかけて触れてきた壁面。

整然と並ぶ六角形のタイル。 でも完璧ではありません。その隙が、なんだかほっとさせてくれます。

苔や割れ目、細かな傷が見られます。 あちこちに「長い時間」の痕跡が落ちているようでした。

淡い紫のような、灰色のような、曖昧な色合い。

濡れているようにも、曇っているようにも。

城壁。力と時間と、沈黙が宿っているような感覚。

かつてそこにあった生活や営みが、うっすらと染みついているような壁。

矢印が描かれていました。 でも、それがどこへ向かっているのかは分かりませんでした。

赤い壁はどこか感情的に映ります。切なさとも、静けさともつかない気配。

ぼんやりと濃淡が重なった壁。雨が染みたような模様。

何度も削られ、重ねられたような線が残っています。 人の手の気配がかすかに残っているように見えました。

壁に影が落ちています。 これは影なのか、それとももうひとつの風景なのか、わからなくなりました。

あとがきにかえて

壁は私たちに語りかけてくるわけではありません。

ただ、そこに立っているだけです。

けれど、そんな姿に安心感を覚えます。

誰にも知られず、意味づけもされず、ただ時間を引き受け続けている壁たち。

その静けさに、私は何度も立ち止まってしまいます。

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Kentaro Matsuoka