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怪談落語が描く、怖いのに笑いが溢れる不思議な世界

今年もまた夏が訪れます。

夏といえばさまざまな風物詩がありますが、怪談もそのうちのひとつですね。

落語でも幽霊が登場するなどの怪談噺は多く存在しています。しかし一般的な怪談とは違い、どこかコミカルで人間味が溢れており、怖さの中に笑いが潜む不思議な魅力があります。

今回は、個人的に好きな怪談落語を紹介します。

首提灯

「首提灯」は古典落語の怪談噺で、身の毛もよだつ幽霊話のように思えますが、そこは落語ならではの味わいがあります。怖さと笑いが絶妙に融合した、まさに怪談落語の代表格と言えるでしょう。

演出次第で怖さを強調することもあれば、噺家の語り口によってはコミカルな色合いが際立つこともあり、その幅広さも魅力のひとつです。

あらすじは、酩酊した男が品川遊郭へ向かう途中、人気のない夜の芝山内で背の高い侍に声をかけられるところから始まります。侍は道に迷ったと告げ、麻布への行き方を尋ねますが、男は侍の訛りに気づき、田舎侍と罵り痰を吐きかけます。

その行動に侍は激怒。一瞬の居合抜きで男の首を斬りつけ、立ち去ってしまいます。

男は斬られたことに気づかず歩き続けますが、やがて異変に気づきます。声がかすれ、首がずれ、血で汚れた首元に触れて、ようやく首を斬られたことを理解するのです。

それでも冗談を言いながら火事の現場へ向かい、混雑を避けるために切断された自分の首を提灯のように抱え、「ごめんよ」とつぶやきながら歩く姿が、滑稽で哀れなオチとなっています。

お菊の皿

「お菊の皿」は、幽霊のお菊が街のアイドルとして扱われるコミカルな展開が特徴的です。

物語は、番町皿屋敷の怪談で知られる女中・お菊の幽霊を見ようと、数人の若者が廃屋敷を訪れるところから始まります。夜の丑の刻になると、お菊の幽霊が現れ、「一枚、二枚…」と皿を数え始めます。

若者たちは恐怖と同時にその美しさに心を奪われますが、噂では9枚まで聞くと狂い死にすると言われているため、6枚まで数えられた時点で慌てて逃げ出します。

その噂が広まると、6枚までであれば命は助かるとして、多くの見物客が廃屋敷に押し寄せるように。やがて弁当や菓子の売り子、お菊へ贈り物をするファン、有料の見物席や興行主まで現れ、毎夜お菊の幽霊が観客の前で皿を数える興行が繰り返されました。

次第にお菊も観客に愛想を振りまくようになり、さらに人気を集めます。

ある夜、お菊が酔っ払っており、お皿を18枚目まで数えてしまい「明日はお休み」と告げて興行を締めくくるというオチです。

死神

死神が登場するシリアスなテーマながら、男と死神のやり取りにはユーモアも巧みに散りばめられている一席。

死神の理不尽さと男の機転による会話劇は軽妙で、重いテーマが笑いを伴いながら進行します。特にラストの「仕草落ち」(演者が前のめりに倒れる演技)は有名で、観客を強く引きつける場面です。

失敗続きで借金に苦しむ男は自殺を決意しますが、自称「死神」の老人に声をかけられ、まだ死ぬ運命にないことを告げられます。老人は、病人の死は傍らに座る死神の位置によって決まり、死神が足元にいれば寿命はまだ先、枕元にいると死が近いと説明。さらに、足元にいる死神は呪文で消せると伝え、それを活用して名医になるよう助言したのち姿を消します。

男は半信半疑の中、医者になることを決意。

そうこうしているうちに、多くの奉行人を抱える主人を助けてほしいと番頭が訪れます。主人の足元に死神が座っているのを見て、男が呪文を唱えると死神は消え、主人は回復。これにより男は名医として評判を得て多くの患者を治療しますが、やがて枕元に死神がいる患者ばかりになり、手の施しようがなくなって評判はガタ落ち。

貧困に逆戻りしつつある日、とある商家から主人を診てほしいと依頼が舞い込みます。しかし、その主人の枕元には死神が。

落胆する男ですが、ある妙案を思いつきます。それは、主人が眠る布団の四隅を持ち、位置を瞬時に逆転させて呪文を唱えるというもの。これが成功し、主人の病状を改善することに成功します。

大金を受け取った男の前に死神が現れ、とある洞窟へ連れて行かれます。そこには無数の蝋燭が灯っており、死神はそれぞれが人の寿命を示していると説明。男が助けた主人と自分の運命が入れ替わっており、自身の寿命の蝋燭は消えかかっていたことに気づくのです。

死神は新たな蝋燭を差し出し、火を継げば助かると告げます。

男は慎重に新たな蝋燭に火を灯そうとしますが、焦った男は手が震えてなかなか上手くいきません。結局、蝋燭は消え最終的には命を落とすという結末です。

風情ある涼しさを落語で味わう

怪談は本来、不安や恐怖を掻き立てるものです。しかし落語の世界では怖さだけを追求せず、聴く人を笑わせ、時に胸を打つ独特の世界観を表現します。

紹介した演目に限った話ではありませんが、落語のオチは噺家によって異なります。そのため、さまざまな噺を聞けることも魅力です。

肝試しやホラー映画といった楽しみ方も日本の文化ではありますが、怪談落語を通じて、ひと味違った涼しさを感じてみるのもおすすめです。

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Kazuya Nakagawa