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「フォントホリック」優しい明朝体、TBUD明朝

タイプバンクが開発したUD書体の明朝体、TBUD明朝

第二回、フォントホリック企画は「TBUD明朝」。

明朝体は確かに美しく、長文における可読性の高さで長年評価されてきましたが、デジタル環境における課題もありました。

たとえば細い横線やセリフの存在により、すべての読み手にとって最適とは言えない場合もあったのです。この「可読性」の課題に科学的なアプローチで挑んだのが、TBUD明朝です。

単なるデザイナーの感覚だけでなく、確固とした学術的な裏付けをもって設計された、先進的なフォントの一つと言えます。

TBUD明朝 タイプバンクが開発したUD書体の明朝体、TBUD明朝

TBUD明朝は、タイプバンクが開発したユニバーサルデザインの明朝体フォントです。

最大の特徴は、第三者学術機関である慶應義塾大学の中野泰志教授の研究結果をデザインの最終決定に取り入れている点にあります。

単なるデザイナーの主観ではなく、科学的根拠に基づいて可読性を追求したユニバーサルデザイン書体(UD書体)なのです。視力の弱い方やロービジョンの方にも配慮した設計となっています

使ってみると、なんとなく読みやすい。疲れにくい気がする。これは実際に当フォントを利用してきた私の印象です。

※参考:モリサワ「エビデンス(科学的根拠)」

気品と可読性を両立する「横線」

TBUD明朝と游明朝の横線の比較

左側の「猫」の方が僅かに横線がふっくらしていて優しい

TBUD明朝は、横線がやや太めに設計されている点が特徴的です。

線の強弱もまた明朝体の持つ揺るぎない魅力であることは間違いありませんが、閲覧環境によっては可読性の点で問題が生じる場合もあります。

一方、TBUD明朝は同社の提供する「タイプバンク横太明朝」をベースに開発されているため、一般的な明朝体と比べて太めの横線となっています。

一般的な横線の細い明朝体と比べると文字も捉えやすく、ふところ(文字の中の空間)も比較的広く取ってあるため、デジタル環境における読みにくさが軽減されています。

ただ単に読みやすくすることだけに全てを捧げているのではなく、明朝体そのものが本来持っている気品をバランス感覚の絶妙さ。

品の良さを失うことなく機能性をさりげなく高める、そんな心憎い配慮もまたTBUD明朝の特筆すべき点です。

濁点、半濁点など誤読しやすい文字への優しい配慮

やや大きめに設計された濁点と半濁点

やや大きめに設計された濁点と半濁点

たとえば「ぽ」「ば」といった濁点・半濁点のついた文字も、やや大きめに設計されています。

単なる見た目の問題ではありません。文字サイズが小さくなったり、印刷の解像度が低い場合、濁点や半濁点は最も見えにくくなる要素の一つです。特に「ば」と「は」、「ぱ」と「は」の区別ができないと、文意が大きく変わってしまうことがあります。

一見すると些細な配慮に見えるかもしれませんが、特に視覚に障害のある方や高齢者の方、さらには読字に困難を抱える方にとって、文章理解の正確性を大きく左右します。

TBUD明朝をはじめとするUD書体が目指すのは、誰もが同じ情報に等しくアクセスできる環境づくりなのです。

ファミリー全員が、みんなに優しい

TBUDのファミリーにあたる、TBUD丸ゴシックとTBUDゴシック

どちらも優しい面持ちで使いやすいし、もう全部使いたい

TBUD明朝は、TBUDゴシックやTBUD丸ゴシックなどと共にシリーズを構成しています。

すべてのフォントがユニバーサルデザインの思想で統一されているため、見出しと本文、強調部分を組み合わせて使用しても一貫性が保たれ、読みやすさが損なわれることがありません。

Webアクセシビリティへの関心が年々高まる中、誰もが情報に等しくアクセスできるフォントの選択は、私たちデザイナーや開発者にとって重要な配慮の一つと言えるでしょう。

フォントはウェブサイト全体の雰囲気を決定づける大きな要素ですが、単なる印象だけでなく様々な環境を考慮した際の可読性の観点も大切にしたいものです。

有償フォントが利用できない制作現場の強い味方、BIZ UD明朝

BIZ UD明朝

欲求不満なデザイナーに輝かしい笑顔を与えるBIZ UD明朝に拍手喝采

余談ではありますが、TBUD明朝は本来有償のプロフェッショナル向けフォントですが、実はほぼ同じデザインのフォントが無償で利用できます。

それが「BIZ UD明朝」です。TBUD明朝をベースに開発されており、書体の美しさと読みやすさはそのままに、文字セットを拡張することでより多くの人が利用できるように配慮されています。

制作現場では予算やライセンスの制約で有償フォントが使えない場面も多いですが、BIZ UD明朝があれば、TBUD明朝に近い読みやすさを実現できるはずです。

執筆時点ではGoogle Fontsで提供されているため、CDN経由はもちろんのこと、一旦ダウンロードしてサブセット化できる点も、制作者としては大変ありがたい限りです。

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Ryota Kobayashi