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「フォントホリック」いつの間にか使っているMontserrat

第四回、フォントホリック企画は「Montserrat」。

タイプデザイナーのJulieta Ulanovskyが、20世紀初頭のブエノスアイレスの街角に刻まれた看板文字からインスピレーションを得て生み出したと言われるMontserrat。

Helveticaのように歴史があるわけでもなければ、Garamondのような古典的権威があるわけでもない。なのに、いつの間にか私たちの制作現場に深く根付いている不思議な書体です。

「とりあえずMontserrat」の中毒性

フォント選びで迷った時、気がつくとMontserratを選んでしまっている。そんな人が世の中には意外と多いのではないかと思っています。(ひょっとすると私だけかもしれませんが)

この「ついつい選んでしまう」現象こそが、Montserratの持つ中毒性なのかもしれません。「ちょうど良い個性」を持つMontserratは、スタートアップのサービスサイトから大手企業のコーポレートサイトまで、幅広いプロジェクトで愛用されています。

親しみやすさと洗練さを併せ持つ絶妙なバランス感覚が、多くのデザイナーにとって「安全で魅力的な選択肢」として機能するのでしょう。

個人的に特に相性が良いと感じるのは、スタートアップやSaaS系のサービスサイトです。

新しいサービスやプロダクトが持つ「親しみやすさ」と「革新性」を同時に表現できる稀有な存在だからこそ、つい手が伸びてしまうのかもしれません。

シンプルながらも、内側に密かなエネルギーを秘めているフォントだと思います。

親しみやすさの秘密

FuturaとMontserratの比較

オレンジ色で塗られたMontserratの方が少し平たくて可愛い。でもFuturaも愛しやすい。

どこか幾何学的でありながら、低重心で扁平な文字形。高さを抑えたプロポーションは親しみやすい印象を与えます。

機械的すぎない温かみを生み出す、人間味のある曲線処理もとても素敵です。比較対象として正しいかどうか分かりませんが、Futuraと比べてみるとその違いがよくわかります。

ウェイトの種類も豊富で、ThinからBlackまで幅広い選択肢が用意されています。

堅実なコーポレートサイトからグラフィカルなデザインまで対応できる柔軟さこそが、様々なプロジェクトで愛用される理由なのかもしれません。

あえて難点を挙げるとするならば、日本語フォントとの相性問題です。

低重心な特性により、日本語との合成フォントではバランスを取るのに苦労することがあります。見出しや装飾目的のテキストなど、部分的な使用の方がデザイン全体の調和を保ちやすいかもしれません。

みんなと満遍なく仲良くできないことだってありますよね。私もそうです。

Google Fontsが変えた風景

Google Fontsで配信されているMontserrat

猫で例えると、Montserratはエキゾチックショートヘアかもしれない。

Montserratの普及を語る上で欠かせないのが、Google Fontsでの無料配信です。

質の高いフォントが無料で使える環境は、制作者にとってこの上なくありがたい存在。ライセンス費用を気にすることなく、クライアントワークでも安心して提案できるこの手軽さが、Montserratの知名度向上に大きく貢献したことは間違いないと思います。

優れたデザイン性と無料での利用可能性、この組み合わせは、多くのデザイナーにとって抗いがたい魅力です。

余談ですが、数年前まで正しく読めず、「モンドゼラート」などと勘違いしていました。「モント(軽やかな鼻歌)」といった感じでぼやかして乗り切っていた記憶があります。

検索サジェストにも同じような悩みを抱えている方が多くて、密かに安心したものです。日々確かな成長を実感しています。

手癖と向き合う

取り回しに優れた素晴らしいフォントだからこそ、手癖で選び続けると似たような成果物が量産される危険性があります。

「とりあえずMontserrat」にならないよう、意識的に選択するよう心がけたいものです。(この点は自戒を込めて)

いつの間にか制作現場の定番となったMontserrat。

その魅力を理解しつつ、適切な距離感を保ちながら付き合っていきたいものです。

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Ryota Kobayashi