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夕暮れを歩く

昔から夕暮れが好きです。

帰り道を急ぐ人の背中、自転車のベルの音、遠くから漂う夕飯の匂い。それらがそっと、今日という日が終わりに向かっていることを教えてくれる気がするのです。

まだ夜にはなりきれない、不確かな時間。空はゆっくりとオレンジから群青へと染まり変わり、街にはひとつ、またひとつと灯りがともっていく、そんな時間に愛おしさと寂しさを感じます。

子どものころ、夏休みには毎年、広島に帰省していました。

親戚の家に泊まり、朝から外で遊んでいたあの頃。特に心に残っているのは、当時の広島の夕暮れです。

遊び疲れて家へと戻る道すがら、ふと空を見上げるといつの間にか茜色に染まっていて、その光景に理由もわからないまま、胸の奥が締め付けられるような寂しさを感じていました。

楽しい時間が終わってしまうこと。明日がもうそこまで来ていること。そのどちらもが、子どもだった私にはほんの少し切なかったのです。

大人になった今も、夕暮れの中に立つと、心が静かになります。

昼間の喧騒も仕事の慌ただしさも、どこか遠くに押しやられていくような気がするのです。そしてその静けさの中に、ほんの少しの切なさと、少しの安心が入り混じっているのです。

夕暮れに染まった街を歩いていると、ふと足を止めてしまうことがあります。

建物の壁に長く伸びた影、誰かの笑い声とそれに続く沈黙。

その物寂しさが好きなのです。

夕暮れを思うということは、もしかすると「終わり」をそっと愛おしむことに、少し似ているのかもしれません。

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Kentaro Matsuoka