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色々なディープテックスタートアップのお話を聞いて、事業設計について考えたこと

最近、特許庁さんのメディア企画である「知財×ディープテックスタートアップ」のインタビューに同席させていただく機会がありました。

そこで日々奮闘する起業家や専門家の方々が、事業の内容や技術、そして知財戦略などをお話ししてくれたんですね。

正直に言って、まあ打ちのめされました。

優秀な人たちって本当にすごいですね。

なんというか、見ている世界のスケールが違うんですよね。そして、その世界に対してどう戦うかという戦略がとにかく緻密でした。

皆さんそれぞれ領域も技術も違うのですが、話を聞いているうちに「これは共通しているような気がするぞ」と感じたポイントがいくつかありました。

今回は、インタビューを通して私が「これはすごいなあ」と感じた点を3つほど整理してみたいと思います。

そのうえで、翻って自分たちの会社はどうなのか、少しだけ内省もしてみようと思います。

とにかくすごいと思った点

今回いくつかのスタートアップの話を聞く中で、「優秀な人たちはこういうところが違うのかー」と感じるポイントがいくつもありました。

技術のレベルや研究の深さは私が簡単に語れるようなものではありませんが、以上に印象的だったのは事業の設計の仕方でした。

どの企業も「良い技術があるからビジネスにする」という発想だけでは動いていなかったように感じます。

もっと大きな視点で、「この社会課題に対して、自分たちはどう戦うのか」という設計が最初にあり、その上に技術や知財、事業戦略が組み上がっているように感じました。

その中でも特に印象に残ったのが、3つについて触れてみます。

社会課題起点で事業を設計していること

まず強く感じたのが、事業の出発点が「社会課題」になっていることでした。

よくあるスタートアップの話だと「この技術があるからビジネスにしたい」という流れも少なくありません。もちろんそれ自体は自然なことです。

ただ、今回お話を聞いた企業の多くは、発想の順番が少し違うように感じました。

彼らはまず、「人類として解決すべき問題は何か」というレベルの課題から考えていたような気がします。そして、その課題に対して自分たちの技術でどんな貢献ができるのかを設計しているんです。

例えば、世界の水問題の解決を目指している企業がありました。

その企業は、小規模分散型の水循環システムの開発を進めています。

背景にあるのは、人口が100億人規模に達する未来において、水不足やインフラ維持コストが避けられない問題になるという認識です。巨大な上下水道インフラを前提とした現在の仕組みは、長期的には維持が難しくなる可能性があるからこそ、水を地域ごとに循環させる新しい仕組みをつくる必要があるというわけです。

こんなこと考えたこともありませんでした。

別の医療系スタートアップは、難治性疾患に対する新しい治療機器を開発しています。

超音波を用いた低侵襲の治療法で、患者さんやご家族、医療従事者に明るい未来をもたらしたいというビジョンを掲げ、海外と連携しながら事業を進めていました。

また、バッテリーシェアの事業を展開する企業は、日本のエネルギー自給率の低さという国家レベルの課題を見据え、電気自動車のバッテリーを単なる車載部品としてではなく、社会全体のエネルギーインフラとして活用するという構想を掲げていました。

どの企業にも共通していたのは、「自分たちの技術でどんな社会課題を解決するのか」というパーパスが極めて明確だったことです。

そして、その明確な目的があるからこそ、長い時間がかかる研究開発でもブレずに進めていけるんでしょうね。

事業の推進力の源泉は、まさにそこにあるのだろうと感じました。

いつまでにどの技術をどうするかというロードマップがあること

次に驚いたのが、技術開発と経営が非常にきれいに結びついていることでした。

今回お話を伺った企業の多くは、かなり明確なロードマップの中で技術開発が行われている印象でした。

およそ4年ごとに明確なフェーズが区切られている企業もありました。先ほど挙げた水問題にチャレンジする企業さんですね。

最初のフェーズでは、コアとなる技術を開発し、重要な特許を押さえる。次のフェーズでは、災害分野など特定の用途で製品化を進める。その次には、特定の地域で水問題の解決モデルを確立する。

そして最終的には、その技術をライセンス提供することで、水問題解決を「民主化」していくといった流れ。

つまり、研究開発だけを見ているのではなく、技術が社会にどう広がっていくのかまで含めたシナリオが描かれているんですね。

別の企業では、化学プラントのプロセス革新に関する技術を開発していましたが、そこでも段階的な展開が設計されていました。

いきなり難しい領域に挑むのではなく、まずは比較的扱いやすい「液体」からスタートし、次に「固体」、そして最終的には「気体」の領域へと技術を広げていくという計画です。

医療系スタートアップの例も面白かったですね。その企業では、「上市するまでに少なくとも45件の特許を取得する」という具体的な数値目標が、ロードマップの中に組み込まれていました。

単に研究成果として特許を出すのではなく、事業戦略の中に知財戦略が組み込まれている点は本当に印象的でした。

技術、知財、事業、資金調達など、それぞれがバラバラに動くのではなく、一つのストーリーとしてつながっていることがディープテックスタートアップの強さなのかもしれない、と感じたりしました。

「要所制圧」という考え方

個人的に一番「なるほど…」と思ったのが、事業展開時の考え方でした。

当たり前ですが、スタートアップが巨大企業と同じ土俵で正面から戦うのは、どう考えても分が悪かったりします。

資金、人数、研究設備、営業力など、ほとんどすべての面で差があります。

だからこそ「全面戦争」は最初から想定せず、局地戦での勝利を狙うという発想でした。

例えば、ワイヤレス給電技術を開発している企業のお話がとても印象的でした。

その企業は、大企業がまだ本気で取り組んでいない新しい領域や、リスクが高くて参入を躊躇するような分野を見極め、そこに集中して研究開発を進めていルトのことでした。

そして、その領域で一気に特許を押さえていくとのこと。

しかも、特許庁の早期審査制度などを活用しながら、とにかくスピードを重視して権利化を進めていくのだそうです。

すごいですね。

そうして技術と特許を積み上げていくと、ある時点で状況が逆転します。大企業がその分野に参入しようとしたとき、すでに「無視できない特許網」が出来上がっているんですね。

「競争するしかない」状態ではなく、「交渉するしかない」状態を作ると解釈しました。

では自社はどうか

どうしても考えてしまうのが「じゃあ自分たちはどうなんだろう」ということです。

正直に言うと、今回のインタビューを通して、反省することが本当に多くありました。

私たちはこれまで、ありがたいことにいろいろなお仕事をいただきながら会社を続けてきました。

ただ、その事業の進め方を振り返ってみると、社会課題を起点に深く設計してきたかというと、全然できていないというのが率直なところです。

どちらかというと、「今自分たちにできること」をベースに仕事を組み立ててきた側面が強いと思います。

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。

小さな会社にとっては、できることから始めるのは自然なことですし、それでここまでやってこられたのも事実です。

ただ、今回お話を聞いたディープテックスタートアップのように、「この社会課題に対して自分たちは何をする会社なのか」というレベルまで深く事業を設計できているかと言われると…

まだ僕たちは何も見つけられていないような気がしました。

もう一つ感じたのは、ロードマップの曖昧さです。

「いつまでに何を実現するのか」

「どの領域でどう戦うのか」

そういった経営の設計がまだ十分に言語化されておらず、結果として「どの市場をどう攻めるのか」という議論も、どうしても浅くなりがち。

技術のロードマップを持つディープテック企業と比べると、私たちはまだ事業そのものの設計図がとてもぼんやりしている状態です。

今回のインタビューを通して、その差をかなりはっきりと見せつけられたような気がしました。

では今後はどうしよう

ただ「すごいなあ」で終わらせてしまうのはもったいない話です。

今回のインタビューを通して感じたことを、自分たちの経営にもきちんと持ち帰らないと意味がありません。

改めて考えないといけないのは、やはり根本的な部分なんでしょうね。

  • 私たちは、どんなサービスを提供する会社なの?
  • どこの誰の課題に対して、何をして、どんな価値を届けるの?
  • その価値を実現するために、どんな技術やノウハウを育てていくべきなの?
  • それを実行するためにどんな人材が必要なの?

こんな問いたち。

簡単そうに見えて深いんですよね…。

こうした経営の根幹に関わる問いから、これまでは少し目を逸らしてきた部分もあったかもしれません。

ただ、今回出会ったディープテックスタートアップの方々は、まさにそこを徹底的に考え抜いていました。

社会課題から事業を設計し、技術と経営を結びつけたロードマップを描き、大企業と戦うための戦略まで緻密に組み立てている姿を見ていると、「事業とはここまで設計するものなのか」と、改めて背筋が伸びる思いがしました。

私たちの会社はディープテックではありませんし、扱う領域もまったく違います。

それでも、事業をどう設計するのかという姿勢については、学べることがたくさんあると感じています。

今回の経験をきっかけに、もう一度自分たちの事業を見つめ直し、議論を重ねながら、少しずつでも戦略の解像度を上げていきたいと思います。

インタビューで出会った方々の熱量と戦略性に負けないように。自分たちの事業も、もう一段、二段とアップデートしていけたらと思っています。

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