0
  • Interests
  • Ryota Kobayashi

100円均一で見つけた音楽

リトルプレスでもたびたびクラシック音楽について書いているのですが、ふと自分がどうしてこの音楽を好きになったのか、そのきっかけを振り返ってみたくなりました。

「好き」のルーツを言語化する機会って意外と少ないので、散文となってしまっている点はお許しください。

話は私が5歳の頃まで遡ります。

少し懐かしい言い方をすると、「コンポ」と呼ばれるものです。CDがゆっくりと機械に吸い込まれていく様子を見るのが好きで、特に意味もなく母親の好きな洋楽を聴いていたことを思い出します。

今思うと柄でもないですが、EaglesやWham!などを流していました。もちろんこれといって深い意味は特にありません。ただ、音楽が生活の中に自然と存在していた、それだけのことでした。

そんな5歳の私が初めて自分の意志で音楽を求めたのは、ある偶然からでした。

100円で手に入れた出会い

「自分で買ったCDを聴いてみたい」

5歳児のおねだりにしては、CDはそこそこの値段がします。駄々をこねても買ってもらえず、不貞腐れながら帰り道に寄った100円均一で買ったCD。それが、本当にたまたまクラシック音楽だったのです。

収録されている曲なんて、当時の私には関係ありませんでした。私にとって、コンポで音楽をいくという体験そのものが特別なのであって、耳にする曲なんてなんだってよかったのだと思います。

初めて聴いたその音楽は、今思い返すとマウリツィオ・ポリーニが演奏するショパンのノクターン(op.15 No.2)でした。

ポリーニはイタリアの名ピアニストで、その正確無比な技術と知的な解釈で知られていますが、当時の幼く無知な私にはそんなことは関係ありませんでした。

家に帰ってそそくさとコンポにCDを差し込み、流れてきた旋律に意味もなくゾクッとして、震えたのを覚えています。人生初の感動だったかもしれません。

音源の状態は決して良くない方でしたが、掠れがかった中から聞こえてくる音色がむしろ好きでした。その微妙な不完全さが、5歳の私には逆に魅力的に映ったのです。

ただCDをコンポに差し込んでみたいという理由で選んだはずの音楽が、こんなにも心を揺さぶるものだったなんて、想像もしていませんでした。

時間を忘れて没頭するという体験

幼かった私は母に懇願して600円をもらい、100円均一でCDを5枚買いました。

なんとも拙く微笑ましい人生初の「ジャケ買い」です。

作曲家のことも、演奏家のことも何も知りません。調べる術も現在のように発達していなかった当時は、CDについているライナーノーツを読むしかありませんでした。

CD一枚あたりの収録曲数は12〜15曲くらいだったと思います。時間にして一時間弱。頭のサイズに合っていないヘッドフォンを一丁前につけて、買ったその日のうちに全曲聴きました。

あっという間に時間が溶けていった感覚を今でも忘れません。大人になった今でも、あの集中力と没頭感があれば乗り越えられることもきっと多いだろうな…と遠い目をしながら思い出すことがあります。

何の先入観もなく、ただ音楽と向き合っていた純粋な時間。それは、後に様々な音楽に触れるようになってからも、なかなか味わえない貴重な体験だったのかもしれません。

好きなフレーズを待つ時間

これはクラシック音楽に限ったことではないと思いますが、「好きな音楽」にはいくつかの種類があると思っています。

一つは、なんとなく耳馴染みが良くてずっと聴いていられる安心感のある曲。そしてもう一つは、一曲のうちの特定のフレーズがとにかくゾクッとするほど素晴らしいが故に聴いてしまう曲。

これは私個人の意見ですが、「特定のフレーズがとにかくゾクッとするほど素晴らしい曲」に出会った時の感動は特にたまりません。自分の中で当たりの曲(失礼な言い方ですが)を見つけた時の気持ちの高揚。私はこれを「宝探し」と呼んでいます。

コンポの操作方法がよくわからなかった当時の私は、好きなフレーズが出てきた曲に鉛筆で丸をつけておいて、後でもう一度最初から聞き直していました。

好きなフレーズを聴くためだけに、曲の最初から最後まで待つ。その行為自体が、音楽との向き合い方を教えてくれていたのかもしれません。

即座に求める部分にアクセスできる現在と比べて、あの頃の方が音楽に対してより丁寧だったような気がします。

数百年分のライブラリの中で

数百年にわたって蓄積された膨大なライブラリ。おそらく生涯かけても全ての曲を聴くのは不可能だと思います。中には譜面に残されたまま、まだ演奏されていない曲もあるかもしれません。

この圧倒的な量の前では、自分が聴けるのはほんの一部分に過ぎないということを受け入れざるを得ません。

でも、だからこそ面白いのだと思います。5歳の私が100円で手に入れたあの偶然の出会いのように、まだ知らない音楽がどこかで私を待っている。そう思うだけで胸が躍ります。

短い人生の中で、一体どれだけの音楽に出会えるのでしょうか。

5歳の頃のように時間を忘れて没頭できる曲が、この先何曲あるのかはわかりません。でも、そう考えるだけで、まだ聴いたことのない音楽を探してみたくなります。

See works

Ryota Kobayashi