ビジュアルデザインの役割を考える

2023.11.10.

Build

Text : K.Matsuoka

Photograph : K.Matsuoka

ビジュアルデザインとは「情報を視覚的な形式で提示し、伝達する総合的なコミュニケーションの手法」を包括する概念です。しかしビジュアルデザインの役割び効能は、万能という訳ではありません。

ビジュアルデザイン自体が解決の糸口を提供できない課題に取り組もうとする場合もあれば、あるいは逆にビジュアルデザインの得意とする問題解決の領域を過小評価し、他の手段による解決策を模索してしまう事態も考えられます。

そこで生じる重要な疑問は「ビジュアルデザインを適用すべき事案とそうでないものを如何にして見極めるか」ということ。

この判断基準は何に基づくべきか、考察していきたいと思います。

保有する有用性

ビジュアルデザインの有用性は、主に5つの大きなカテゴリに分けられると考えています。

以下のような「意図」がある場合はビジュアルデザインは極めて有効な手段と言えます。しかしビジュアルデザインは全ての課題を解決するソリューションではありません。正しい設計、正しいプロセスが機能して初めてビジュアルデザインはその効力を発揮することを念頭に置いておく必要があります。

1.ブランドアイデンティティの確立

ビジュアルデザインは、企業や製品のブランドアイデンティティの確立に不可欠な役割を担います。一貫したビジュアルスタイルを通じて、ブランドの価値観やメッセージを表現し、その認知度と印象を向上させることが可能です。

2.情報の視覚的整理と提示

ビジュアルデザインは、複雑な情報を視覚的に整理し、わかりやすく提示することに長けています。この能力により、情報の理解と処理が促進され、受け手に対する明確かつ効果的なコミュニケーションが可能となります。

3.差別性の創出

感覚的印象の調整やメッセージの明確化、強調に関わる要素を担うことも得意分野の一つでしょう。具体的には、独自性を際立たせたり、特定の情報を強調表示することにより、視覚的な訴求力を高める役割を担います。

4.感情への訴求

ビジュアルデザインは情緒的な影響力を持ちます。受け手の感情に訴えかけ、文脈を伝達したり、欲求を刺激すること、また想像力を喚起し、共感を生み出すことなど、受け手の心理に深く働きかける力があります。

5.機能性の向上

ユーザーインターフェースの設計においても重要な役割を果たします。ビジュアルデザインは情報の視認性を向上させ、内容の優先順位を明確にし、直感的な理解や操作を促すことを可能にします。これは、デザインが持つ実用的かつ機能的な側面を表しており、利用者の体験を容易で効率的なものに変える能力を有していると言えます。

「特定のプロセスでのみ解決可能な問題」はビジュアルデザインに依存すべきではない

ビジュアルデザインが適切な解決策となるか否かを見極めるには、デザイン施策を実施する前後のプロセスにおける課題の本質を正しく理解することが不可欠です。

例えば、プロダクトに関わる問題点、営業上の障壁、顧客サポートにおける課題など、特定のプロセスでのみ解決可能な問題群は往々にしてプロジェクトに現れます。

これらはビジュアルデザインの責任範囲を超えたものが多く、その解決には他の手法の採用が求められることが通常です。

具体例として「プロダクトやブランドが競合他社と比較して著しく劣っている場合」あるいは「エンドユーザーがその選択に明確なメリットを見出せない状況にある場合」などが挙げられます。

このような場合、ビジュアルデザインのみで競争力を高めることは困難です。

確かに、誇張したり、派手な演出によってブランドのイメージを一時的に盛り上げることは不可能ではありません。しかしこのようなアプローチが常に良好な結果を導くわけではないというのが現実です。

したがって、このような場合においては、プロダクトやブランド自体の基本的な見直しや再構築が先決となるはずです。

ブランドやプロダクトの競争力強化を目指す戦略の一環として、全体のイメージリニューアルや包括的なコミュニケーション戦略の枠組み内でビジュアルデザインを適用することは有効な手段です。

Webにおけるビジュアルデザインが機能不全に陥る様々な問題

ビジュアルデザインがその真価を発揮できない背景には、デザインの外に原因が潜んでいる可能性が高いと考えられます。

たとえ秀逸なクリエイティビティに満ちた制作物を作成したとしても、その成果が実を結ぶ道筋が誤っている場合、望むべき成果の達成は難しいでしょう。ビジュアルデザインの機能不全を引き起こす主な要因について、以下に例示してみます。

1.ターゲットのミスマッチ

ビジュアルデザインがその機能を果たさない場面においては「ターゲット」もしくは「チャネル」に誤りがある可能性があります。

Webサイトへのアクセスは顧客層の一部に限定されることも多く、マスメディア広告やSNSの運用、または店頭でのセールスプロモーションを含むより広範なコミュニケーション手段を駆使することがより効果的な場合もあります。

この問題は厳密にはマーケティングの領域に属しますが、デジタル媒体に限らず、多様な戦略の設計と、その実行に際してのメディア選定の重要性が強調されるべきです。

2.情報設計の問題

情報設計のプロセスを軽視し、それに基づく設計に不備が生じた場合、ビジュアルデザインの有効活用は言うまでもなくコンテンツを通じたメッセージの伝達も困難を極めるでしょう。

適切な情報設計を欠いたWebサイトはその本来の役割を果たすことができません。

具体的な例を挙げるなら、トラフィックの増加を目指すページが深層に位置しておりリンク元が限定的である場合、または情報の分類が不適切で利用者の混乱を招くようなサイト構成などがこれに該当します。

ビジュアルデザインは、視覚的印象や感情の訴求、画面上での機能性などの問題解決を担います。一方で、情報設計はサイト全体の機能性や、利用者の行動に関する問題解決に向き合う重要な役割を持ちます。

プロセスの流れとしては、まず情報設計を行い、その後にその枠組みを具現化する形でビジュアルデザインやコンテンツの制作が行われます。

デザインと情報設計は互いに深く関連しています。プロジェクトの規模や特性に応じてそのアプローチには若干の変動はあれど、これらは別個に、かつ綿密に検討すべき要素であると言えます。

3.プロセスの問題

「なる早でデザインのリニューアルを行いたい。しかし数ヶ月後には別のリニューアルを予定しているため、暫定的に印象を変えるようなデザインを簡単に実装してほしい」
とのオーダーが寄せられた際には、プロセス自体に根本的な問題が存在すると指摘せざるを得ません。

適切なプロセスでは事前に策定すべき事項が確定されている必要がありますが、そのような基本的な決定がなされていないため、急場しのぎの成果物を製作しても結果として多大な手戻りが生じることが予測されます。

また、「簡単に」という表現の定義にも問題を孕んでいます。

「簡単に」という要望を適えるためには、「予算上、どのプロセスを削減して進行すべきか」という観点から慎重に検討する必要があります。

このようにプロジェクトの本質的な目的に起因する問題点をビジュアルデザインだけで解決するのは難しいでしょう。ビジュアルデザインに限らず、プロセスの課題を個別の作業で補うことには根本的に無理があり、慎重な検討を要するためです。

「何を」「どの作業で」「どうやって」解決するかを突き詰めることがビジュアルデザインの価値を向上させる

「ビジュアルデザインをどう制作すべきか」という問いに先立ち、まずは「該当プロジェクトが目指す解決すべき課題の本質は何か」という点を明瞭にする必要があります。

これまでに述べてきた通り、ビジュアルデザインは万能ではありません。適用される過程、文脈が適正に機能している場合に限りその真の価値を発揮することができるためです。

プロジェクトの深層に迫ると、解決策はビジュアルデザインではない課題が存在することも珍しくありません。

「どのような課題に対し、どのタスクを用いて、どのように解決を図るのか」という基本的な問いに、誠実かつ真摯に応答することが、ビジュアルデザインの真価を引き出す上で不可欠であると私たちは考えています。

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