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WBCを観て感じた、ビジネスにおけるエース依存の危うさ

最近、体を動かす機会はめっきり減りましたが、スポーツを観ることはあります。

中でも野球が好きで、最近ではWBCが大きな話題になりましたね。

短期決戦であるトーナメントでは、エースの存在感が大きいです。実際、日本代表も大谷翔平選手を擁し、大きな期待を集めていました。ですが、どれだけ優れた選手がいても、絶対的なエースさえいれば必ず勝ち抜けるわけではないことも、あらためて感じさせらた大会でした。

結果として日本はベネズエラに敗れ、準々決勝で姿を消してしまいます。

短期決戦で問われるのは、個の力ではなく総合力

どれだけ優れた選手でも、一人で全てを背負い続けるには限界があります。連戦の疲労、相手の研究、プレッシャーの蓄積。勝ち進むほど相手のレベルも上がり、ひとりの力だけでは押し切れない場面が増えていきます。

特にWBCのような世界大会では、その傾向がよりはっきり表れます。打線の援護、守備の安定、継投の判断、ベンチワーク。最終的に問われるのは、やはりチーム全体の総合力です。

エースは必要ですが、エース依存だけでは勝ち抜きにくいものです。これはスポーツに限った話ではなく、ビジネスにも当てはまるように思います。

ビジネスの現場でも難しい局面を整理できる人や、判断が止まりそうな場面で方向を示せるなど、いわゆるチームのエースが存在します。

こうした存在は、組織にとって非常に大きいものです。状況が混乱したとき、最後に頼れる人がいることは、現場にとっては大きな安心感です。停滞しかけたプロジェクトも、その人が入ることで一気に前に進むことがあります。

エースの存在自体を否定する必要はありませんし、難しい局面を切り開く人は、どの現場にも必要だと感じています。

エースがいても、勝ち切れるとは限らない

ビジネスにおいてもエースの存在は大きなものですが、スポーツ同様にエースに依存ばかりしてしまうことには注意が必要です。

ひとりのエースに判断も調整も推進も集まっている状態は、一見すると効率的に見えます。短期的には、そのやり方で乗り切れることもありますが、それが続くとチームは少しずつ弱くなっていきます。

エースがいないことで、判断すべきことが決まらない、品質が保てないなどの状態は頼もしさがある一方で、危うさでもあります。

これは野球でいえば、エースが投げている間は勝てる可能性は高くなりますが、継投に入った途端に試合が崩れるチームに近いかもしれません。あるいは、エースが抑えても打線が点を取れず、結局は勝ち切れないチームです。

WBCで最後まで勝ち上がるチームには、もちろんエースと呼ばれる選手が存在します。

それと同時に、守りが固く、打線がつながり、控え選手も役割を果たすなど、一人の才能に賭けるだけではなく、チーム全体で勝負していることが、優勝するための必要条件だと感じます。

ビジネスも同じです。

強い組織とは、スター社員が一人いる組織ではありません。要所ごとに任せられる人がいて、誰かが抜けても簡単には崩れず、役割を補完し合える組織です。

エース依存から抜け出すにはどうすればいいか

では、どうすればエース依存から抜け出せるのでしょうか。

ひとつは、難しい仕事を特定の人だけのものにしないことです。

現場ではどうしても、確実にやれる人に大事な仕事が集まりがちです。それは自然なことですし、失敗できない場面では合理的でもあります。ただ、それを続けていると、経験の偏りが起きます。ある人だけが修羅場を知り、ある人だけが判断の重さを知り、他の人はいつまでも補助役のままになるため、次のエースは育ちません。

野球でも、エースばかりに投げさせていると、控え投手は育ちにくくなります。いざという場面で代わった投手が経験不足だと、一気に流れを失うことがあります。ビジネスでも同様に、少し難しい役割を意図的に分担し、経験を広げていくことが欠かせません。

もうひとつ大事なのは、エースの「結果」ではなく「思考」を共有することが大切です。

優れた人は、ただ仕事が早いだけではありません。それまでの経験を活かした判断の筋道に強さがあります。そこが共有されないままだと、周囲からは「なぜかうまくやる人」に見えて終わってしまいます。

結局、属人的になってしまい人材育成にはつながりません。

優れたエースがいるのであれば、その人だけに背負わせ続けないことが大切です。その人の力を一点集中で使い潰すのではなく、周囲に波及させていくことが、長く勝ち続ける組織には必要だと感じています。

次の担い手を育てるには、失点も必要

大事なのは、エースがいることではなく、エースがいる状態から次へ進むことが大切です。つまり、エースを軸にしながらも、エース依存にとどまらない環境を作ることです。

そのためには、次の担い手に少しずつ重要な役割を任せていく必要があります。ただ、そこで忘れてはいけないのは、人を育てる過程では、ある程度の失点が避けられないということです。

新しく任された人が最初から完璧にできるとは限りません。判断が遅れることもあれば、詰めの甘さが出ることもあります。遠回りに見える場面もありますが、そのたびに「やはりあの人しかいない」とエースに頼ってしまうことは、チームの層はいつまでたっても厚くなりません。

一人が何とかしてくれるチームは、たしかに強く見えますが、本当に強いのは誰かが苦しい場面を引き受けたとき、周囲もまた自分の持ち場で踏ん張れるチームです。

野球でもビジネスでも、最後にものを言うのは、一人の突出した力だけではありません。要所を支える人が増え、誰かが抜けても崩れない状態をどうつくるかが、長い戦いを勝ち抜いていくために必要なのだと感じます。

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Kazuya Nakagawa