2期目を終え、3期目が始まるとともに慌ただしく年末年始を迎えました。ここで2024年を振り返り、2025年への展望を考えてみたいと思います。
2024年の振り返りと、印象的だった3つの出来事
2024年度も官公庁案件をはじめとする重要なプロジェクトに携わる機会を数多くいただき、組織の成長はもちろん社会的責任も実感できる一年となりました。私たちを信じてくださるお客様には本当に感謝しています。信じてくださった分、最大限以上に価値をお返しできるよう、これからも徹底的に学び、作ります。
まず2024年はどのような年だったかを、大まかに振り返ってみます。
組織としての数値的成長
さて、8月末に迎えた2期目の決算では、売上全体で前年を大きく上回る結果を達成することができました。
全体を通して「色々と他社よりも安価な提案ができる」という姿勢から脱却し「得意分野を明確に定め、確実な価値を提供できる領域に特化する」方向へ進めました。結果、適正な品質には適正な対価が必要であるという、本来あるべき事業構造に近づけた手応えを感じました。
私たちが本来追求すべき「文化的価値と社会的意義を追求する姿」に向けて着実な歩みを進めることができたような気がします(まだまだ不十分ではありますが)。
チームについても触れてみます。
まず、エディトリアルチームは着実な成長を見せました。継続率90%以上という数字を維持できたことは特筆に値します。
これは多くのプロジェクトでPMを担当してくれた中川による手腕によるところが大きいと感じています。表からは見えないところでの小さな対応、先回りした準備など、裏側で常にプロジェクトを支え、牽引してくれていました。
また、エディター以外の業務も幅広く精力的にこなす市川の的確かつきめ細やかな対応、冷静な状況分析も非常に光りました。常に会社を主語にし、高品質なアウトプットを目指そうとトライアンドエラーを繰り返す姿は頼もしく感じました。
2024年は様々な変化や課題が荒波のように押し寄せるような一年でした。その中において静かに実績を積み上げるエディトリアルチームの存在は、長期的な事業の基盤を支える重要な要素として非常に心強かったです。
また、デザインチームは前年比300%を超える数値を記録しました。納品数が前年度とさほど変わらない中でのこの数値には少し驚きです。
高負荷かつ高難度の制作依頼が連続する厳しい環境の中で、常に新しい技術や表現の可能性を模索し続けたデザイナー小林の仕事には深い感銘を覚えます。単に与えられた課題をこなすだけでなく、常により良い道を求め、自己研鑽を怠らない姿勢は、組織の未来を支える大きな原動力になってくれると感じています。
「本質的な価値創造のためAIとどう共存するか」という命題の顕在化
2024年以前から話題に挙がっていたAIですが、特に2024年は市場環境が大きく変動した年でもあったように思えます。一部の層のみがAI技術を活用するのではなく、一般ユーザーが触れる機会が増加したように感じました。AIは世界の構造を再編し得る素晴らしい技術であることには論を待ちません。
ただ、その利便性に感動を覚える反面、既存の美的価値が損なわれる可能性への危機感も感じるなど、ある種相反する感情が交錯した一年でもありました。
この時代の変化は、ビジネスリテラシーやスキルセットの向上はもとより、リベラルアーツの素養を磨く必要性を私たちに突きつけているように感じます。これからの社会でより良い価値を提供するには、「技」だけでなく「心」も含めた総合的な能力が不可欠だと改めて強く認識するようになりました。
当社でもAIは積極的に活用していますが、依存は厳に戒めています。AI依存による学習意欲の低下や思考停止は、価値提供のプロセスにおいて極めて有毒なためです。
これからの時代に真に重要となるのは、インターネットやPCでは代替不可能な領域、すなわち膨大な情報を選別した上で付加価値を創出する、本質的な意味での「考える力」「学習する力」「編集する力」だと思っています。この能力を組織として確立できるか否かが、今後の重要な分水嶺になると感じています。
アウトプット体制の確立
2024年も佳境に差し迫った12月後半、会社として本格的なアウトプット体制の構築に向けて、重要な合意形成を行うことができました。
これまで、クライアントワークを優先せざるを得ない状況が続き、情報発信が後回しになってしまう傾向にありました。しかし、「正しく価値ある情報発信、らしさある情報発信こそが組織が向き合うべきイシューである」と考える私たちが、自らのアウトプットを疎かにしているという状況は、明らかな矛盾を抱えていました。
確かに高負荷な取り組みとなることは避けられません。しかし組織一丸となってアウトプットに注力する体制に向き合えたことは、とても重要な転換点だったような気もしています。今後はこの取り組みを一過性のものとせず、持続可能な形で継続していけるよう、チーム全体で力を合わせていきたいと考えています。
2024年に感じた組織の3つの課題と、向き合い方
組織として、どの方向に向かって学びを深め、どの指標に対してどのような行動を取るべきか。2024年はその具体的な指針について、私自身を含めて改善の余地を強く感じた一年でした。
自らの無能を吐露するようで、大変にお見苦しく、お恥ずかしい話ばかりです。情けなくもありますが、このまま筆を進めます。
「あるべき姿に対する当たり前」を当たり前に行うこと
「日々学ぶ」「学びをアウトプットする」など、プロフェッショナルとして基本的な所作を組織に十分に浸透させられなかったことは、率直に反省すべき点です。
先に述べたようにアウトプット体制が構築できていなかったという点もまさにこの課題に当てはまります。まさに汗顔の至りです。その根本的な原因は、組織の在るべき姿を明確に示せなかった私の責任に帰結します。
このような状況は、ある種の負の循環構造を生み出してしまう可能性があると感じました。
- 在るべき姿が不明確であるため、効率的な学習ができない
- 学習が不十分であるため、質の高いアウトプットが困難になる
- アウトプットの不足がプロフェッショナルとしての自意識を低下させる
- その結果、コミットメントが不足し、特定のメンバーに負荷が集中する
- 過度な負荷により学習の機会が失われ、さらなる質の低下を招く
結果、これでは誰の人生も豊かになりません。
この循環構造への突入は避けたいところですが、正直近いところまではいってしまっていたような気がしています。まずこの循環構造から離れなくてはいけませんでした。
在るべき姿を目指す上で掲げたことの一つが「当たり前のことを当たり前にできる組織になろう」ということ。
当事者意識とコスト感覚を持ち、仮説に基づく質問を心がけ、社内外問わず納期を厳守し、打ち合わせには入念な準備を行い、勤怠を適切に管理し、専門領域以外にも学習を続け、外部との交流を重ねること。これら全ては、プロフェッショナルとして当然の心構えです。
私も含め、これらが当たり前にできていたとは正直言い難いなと感じています。
ただし、「当たり前」という概念は極めて多面的で、個々人の解釈に大きな差異が生じやすいものです。私たちが目指すべき「当たり前」は、より高次な水準、より厳格な基準であるべきだと考えています。
まず私自身が「当たり前」を収集する過程自体に高い基準を意識することから始めました。デスクトップリサーチだけではなく、実地での調査を重視し、業界の実態に直接触れることを重要視しています。
なぜなら、机上の調査のみでは、時として虚構や表層的な理解に陥る危険性があるためです。誤った「当たり前」を盲目的に参照することは、組織に歪みをもたらす可能性があります。そのため、外部のプロフェッショナルの方々、成熟した組織文化を持つ企業の方々との対話を積極的に進めています。
優れた実践者や組織から活きた経験談を学び、それを基に組織のあり方、目標設定、求められる品質基準といった本質的な課題に向き合っていこうと思っています。
局所負担的な役割分担から適材適所の役割分担へ
組織の役割分担にも課題が散見されました。現在見直しを始めています。
これまでは「できる人が都度対応する」という場当たり的な動きが多く見られました。この状況は組織の健全な成長を阻害する要因となっていたように思えます。特定のメンバーが作業を抱え込むことで、本来その業務を担うべき人材の成長機会が失われ、さらには「誰かがやってくれるだろう」という依存体質を生む結果となってしまいました。
これまた実にお恥ずかしい話ですが、適材適所という概念が会社に欠けている状態でした。
助け合いの精神は組織において不可欠ですが、特定の人への過度な依存は個々のコミットメントを著しく低下させます。この課題を克服するため「得意分野を持つ専門家が適切な役割を担う」という、本来あるべき体制への移行を進めています。
このシフトを実現するには、個々人の専門性をより一層高める必要があることは言うまでもありません。
各メンバーが自身の得意分野はもちろん、関連する周辺技術や市場動向についても深い知見を持ち、求められる成果に責任を持ってコミットできるチームを目指そうと思っています。
数値意識の希薄さからの脱却
私たちは制作を主軸とする「デジタル上のものづくりを行う会社」という特性上、純粋な数値目標の達成を主眼とした案件が大半を占めているわけではありません。しかし、マーケティング施策に関連するご依頼も頂戴しており、その場合は「良質なものを制作する」というマインドだけでは数字を伸ばすことはできません。
お客様が直面する課題に対して、どのようなソリューションを提供できるのか。どのような絵図を描き、どのタイミングで施策を展開し、どの指標を追跡し、分析・改善を重ね、どの施策を継続的に最適化していくのか。さらには、撤退ラインをどこに設定するかなど、常にあらゆる可能性を想定し、代替案を用意しておく必要があります。
これまでは幸運にも施策と仮説の乖離が比較的小さかったこともあり、数字が伸びてしまっていました。嬉しいことではあるのですが、それが故に数字をストイックに追求する姿勢が不足していた感は否めません。誠に慚愧に堪えません。
この態度は自社の売上にも明確な影響を及ぼします。例えば特定の数値目標が未達となった際、それを漠然と受け止めているだけでは数値に対してコミットする文化が育まれません。経験則として、このような組織の再建には多大な労力を要します。そのような組織で売上を上げることは本当に困難です。
繰り返しになりますが、私たちは制作を主軸とする会社です。しかしそれは、数値目標をおろそかにして良い理由にはなりません。
対価に対してどれだけ価値のある仕事ができたのかを定量的に判断することはもちろん、求められた数字を必達するという強い意志を持ってこそ、真に価値あるアウトプットを提供できるのだと思っています。
2025年は、組織全体でお客様の数値目標や自社の様々な指標をより仔細に把握し、それらを継続的に改善していくための方策を徹底的に追求していきたいと考えています。
2025年の歩みに向けて
さて、2025年も引き続き、社会課題と顧客課題の解決を最優先事項として掲げます。そのためには短期的な売上増加を追求することはせず、組織力の本質的な強化に重点を置いていきます。
私たちが扱う「情報」や「美意識」は、極めて抽象的で定義の難しい、捉えどころのない概念です。「良質な情報とは何か」「優れたデザインとは何か」という根源的な命題を仰ぎ見るだけでは本質には至りません。必要なのは、これらの問いに強く、かつ丁寧に向き合えるチームであり、問題の本質を見抜く眼力なのだと感じるようになりました。
正しく仕事と学びに向き合い、制作会社としての矜持を持って専門性を徹底的に追求することで、「情報」や「美意識」に対する私たちなりの解に近づきたいと思っています。
そのためには、思考が停止した場当たり的な仕事をしていてはいけません。
2025年は「当たり前を当たり前にすること」以上に「当たり前を当たり前に超えること」ことを目指します。昨年の経験を糧に、本年も一つひとつ丁寧に歩みを重ねていきます。